断腸亭料理日記2023
4408号
9月4日(月)第一食
月曜日。
なにを食べようか。
そう。
今日は、金曜日に行けなかった[尾張屋]にしようか。
さて、そば[尾張屋]の創業は?。
ネットで改めて調べると、なぜか二説流布している。
万延元年(1860年)と明治3年(1870年)。
10年違い。
なにか数え方の違いか、情報に新旧あるのか。
だが、どちらにしても、そばやとしては、現存する
浅草最古の暖簾といってよいだろう。
そして、元祖断腸亭永井荷風が通ったことでも有名。
いつも昼にきて、壁際の決まった席に座り
ニコリともせずに判で押したように、かしわ南蛮を
食べて帰った、と。
その席に先に座っている人がいると、その前に立って
待った、という。
まあ、お馴染みの、稀代の変人っぷりを発揮していたよう。
ただ、元祖断腸亭先生は、決して池波先生のような
食道楽ではなかった。
いや、むしろ、食べることにはたいした興味はなかった。
それで、毎日同じものを同じところで食べられた、
のである。
断腸亭先生の家は、尾張藩の武家で、食い物にごちゃごちゃ
いうのは、卑しいことであると教えられてきた、と。
ともあれ。
当時は頭上に神棚があったようだが、断腸亭先生の
写真が今も壁側のその席の後ろに置かれている。
[尾張屋]そばやだが、今は、巨大な海老天重が
看板というのがなかなかこの店のおもしろいところ。
私もかなりの頻度でここでは食べている。
また、先日も書いたが割烹系の料理も品書きに
載せているのも特徴であろう。
14時少し前に到着。
一階はほぼ満席、二階にも。
外人観光客も数組見える。
かろうじてあいていた窓側のテーブルへ。
断腸亭先生の写真の斜向かい。
お酒冷(ひや)一合。
テーブルにたくさん立てかけられた
品書きをざらっと、見ると、お!。
松茸土瓶蒸しが、ある。
待っていた!。
毎年秋には、ここで食べることにしている。
9月に入ったからか。
迷わず注文。
土瓶蒸しは、多少時間が掛かるのであろうから、
板わさも。
酒がきた。
そば味噌付き。
板わさも到着。
なかなか、凝った乙な盛り付け。
蒲鉾と黒く丸く筒状に丸められたもの。
これは、中心が三つ葉で薄く切った生のいかを
海苔で巻いたもの。
そして、わさびが山盛り。
山盛り、というのは、うれしい、ではないか。
そして、きた。
松茸土瓶蒸し。
上には、すだち、か。
ふたを開けて、すだちを絞る。
縦に薄く切った、松茸。
青みは、三つ葉。
中に、銀杏と蒲鉾。
小さな猪口に取って飲む。
よい出汁、で、ある。
私自身、松茸を食べるのは、年に一度、ここで
だけ、といってもよいかもしれぬ。
東京、関東というところには、松茸は生えない。
従って、食べる習慣というものは、ほぼない。
まあ、季節の風物詩、縁起物。
それでも、出端に、こうして食べると
ちょっと、うれしい、ではないか。
そして、そばやでこんなものが食べられるのも
ありがたい。
呑み終り。
そばは、なんにしよう。
ノーマルにざる、でもよいし、ここは、
ゆず切りだったり、季節ごとに、変わり蕎麦
もある。今は夏で紫蘇切りのよう。
はて。
ん!。
とろろ。
ここで食べたことがあったろうか。
そばとろ、とここではいうよう。
きた。
なかなかよい顔をしている。
改めて、ここのそばを見ると、細目で白。
更科までいかないのかもしれぬが、近かろう。
そして、とろろ。大きめのもみ海苔。
ちょっと濃い色のとろろのつゆ。薬味のねぎとわさび。
そばをつまみ、とろろにつけ、すする。
なるほど、見た目に通りに、濃い味付け。
これ、うまい。
そして、もりも多い。
うまかった、うまかった。
ご馳走様でした。
?
台東区浅草1-7-1
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