断腸亭料理日記2023

国立劇場初春歌舞伎遠山桜天保日記 その1

4251号

1月4日(水)

さて、正月4日、またまた歌舞伎。
今日は、国立。

今年の初芝居は、歌舞伎座と国立の両方に。
国立は、建て替えが決まっており、さよなら公演と
銘打っている。(国立の歌舞伎は3月の公演が最後か。)

毎度国立は、音羽屋尾上菊五郎が座頭(ざがしら)の
菊五郎劇団。

今年の正月の演目は「遠山の金さん」。
国立なので、これも通し。
国立の歌舞伎はほぼ通しだけなのではなかろうか。
文化財保護という意図がむろんあろう、やはり
作品にとっても通しがよい。

12時開演なので、10時半頃内儀(かみ)さんと家を出る。
やっぱり着物。

大江戸線で新御徒町から春日、春日から三田線で
神保町。神保町からはタクシー。
半蔵門というのは、元浅草の拙亭からは行きにくい
のである。

着いて、チケットを引き上げ、入る。
例年通り、正月なので、獅子舞も出ている。

売店で、カツサンドと柿の葉寿司を買う。
もう少し他にないのかとも思うが、国立なので
しょうがなかろう。

席は、こちらは前の方なのだが、花道の下手側。

開演。だが、完全な暗転。
スライドショー画像でスタート。
ナレーション(影ナレ)の声は菊之助のよう。

長いが、プログラムを書き出しておこう。
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未来へつなぐ国立劇場プロジェクト
初代国立劇場さよなら公演

竹柴其水=作
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言 遠山桜天保日記 六幕十一場
−歌舞伎の恩人・遠山の金さん−
 (とおやまざくらてんぽうにっき)
 国立劇場美術係=美術

序幕 第一場  河原崎座楽屋の場
   第二場  花川戸須之崎政五郎内稽古所の場
   第三場  隅田川三囲堤の場
二幕目    安房国山中の場
三幕目第一場 花川戸須之崎政五郎内の場
   第二場  山の宿尾花屋の場
   第三場  大川橋六地蔵河岸の場
四幕目第一場  新潟行形亭座敷の場
    第二場  同  庭先の場
五幕目    北町奉行所白洲の場
大 詰     河原崎座初芝居の場


遠山金四郎 尾上菊五郎
角太夫女房おもと/河原崎座役者 中村時蔵
生田角太夫/河原崎座役者 尾上松緑
尾花屋小三郎後ニ羅漢小僧小吉/河原崎座役者 尾上菊之助
佐島天学/河原崎座役者 坂東彦三郎
遠山家用人 樋口善之助/与力 大里忠平/河原崎座役者 坂東亀蔵
政五郎養女おわか/河原崎座役者 中村梅枝
若太夫 河原崎権三郎/八州廻り 咲島千介/河原崎座役者 中村萬太郎
捕手頭 佐藤清介 市村竹松 待乳山のおえん/河原崎座役者 尾上右近
楽屋番紋助 市村光
八州廻り 宮森源八/河原崎座役者 尾上左近
河原崎座役者 坂東亀三郎
尾花屋丁稚 辰吉/河原崎座役者 尾上丑之助
河原崎座役者 寺嶋眞秀
河原崎座役者 小川大晴
笛方 六郷新三郎/旅の一座の座頭 市村橘太郎
尾花屋番頭 清六 片岡亀蔵
須之崎の政五郎/座元 河原崎権之助 河原崎権十郎
行形亭女将お滋 市村萬次郎
遠山家家老 簑浦甚兵衛 坂東楽善
羅漢尊者 市川左團次
ほか

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令和5年初春歌舞伎公演
『通し狂言 遠山桜天保日記−歌舞伎の恩人・遠山の金さん−』

これが、プログラム上のタイトル。

“歌舞伎の恩人”がキーワードである。
遠山の金さんを知らない人はおるまい。
江戸後期、天保の頃の実在の江戸町奉行。
ご存知、桜吹雪の。

天保の改革で老中水野忠邦によって取り潰されそうになった
歌舞伎芝居を、北町奉行遠山左衛門尉(さえもんのじょう)が
水野と戦い守ってくれたので、歌舞伎界は多大な恩義を感じていた。

天保の改革では水野は200席以上あった寄席の全廃を主張し
金さんは戦ったがほんの一部が残されたのみ。
歌舞伎の方は、金さんのお蔭で閉鎖は免れたが
今の人形町などにあったものが浅草寺裏に三座とも移転
させられている。
まあ、歌舞伎界と遠山の金さんとはこういった関係にあった。
史実といってよいのであろう。。

こういったことは私も知識としては知っていたのだが、
実際に歌舞伎芝居として、遠山の金さんを観るのは初めて。

金さんといえば、我々世代であればTV時代劇。
お奉行は杉良(スギリョウ、杉良太郎)であろうか。
憶えている範囲でも、高橋英樹、松方弘樹も思い出す。

裃姿で片肌を脱いで、桜吹雪の彫り物を見せて、
「この、桜吹雪が目にへえらねえか!」とべらんめいの
江戸弁で容疑者を一喝する。
水戸黄門の「この紋所が、、、」同様に痛快なお決まり
シーンであった。

TVの前は映画、さらにその前が当の歌舞伎から
遠山の金さんは始まっていた。もちろんのことである。
数ある、遠山の金さんものの、元祖。
それがこの芝居ということになろう。
(講談、落語にも遠山政談というのはあってどちらが先かは
未調査。講談、落語の方が先ではなかろうか。)

過去、どのくらい上演されてきたものか。
国立のプログラムには記録は載っていなかったが、
ともかくも観ておかねばならないものの一つであろう。

初演は明治26年(1893年)東京明治座。
当時の明治座といえば、座頭は明治の名優初代市川左團次。

明治の歌舞伎界は、團菊左時代などともいわれ、
九代目市川團十郎、五代目尾上菊五郎と並んで
三本指の大看板役者であった。写真も残っているが、
鼻筋の通った二枚目。
若い頃の左團次は、歌舞伎ではなく両国のいわゆる
緞帳芝居にも出るなど不遇な時代もあったよう。
明治座というのは初代左團次がこの「遠山の金さん」
初演の年、自ら作った劇場である。

しかし、明治26年初演というと、維新から大分たっている。
このくらい時間がたたないと実在の江戸町奉行を
主人公にした芝居は作れなかったということか。
(それでも、初演時は遠山ではなく、大山と、
もじった名前にしている。)

 

※追記
この芝居より前、明治7年(1874年)大阪で「接木根岸礎
(つぎきねぎしのいしずえ)という外題で初演された
遠山政談ものがあったよう。これが最古か。

つづく


国周 明治26年(1893年) 東京明治座 遠山桜天保日記
大山左衛門尉 初代市川左團次
初演時のもの。

 

 

 

 

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