断腸亭料理日記2023

歌舞伎座二月大歌舞伎
通し狂言 霊験亀山鉾 その1

4281号

2月16日(木)夜

さて、今月も歌舞伎座。夜の、第三部。

なぜかというと、仁左衛門が、一世一代と
銘打って、芝居を演(や)る、と聞いて。

片岡仁左衛門は78才。
先年鬼籍に入った吉右衛門と同い年。

一世一代とは、私などの認識では、
十八番の芝居で、乾坤一擲、一生に一度というほど、
力の入った芝居、といったものであったが、
歌舞伎の場合なのか、本来の言葉の意味なのか、
これで演じ納め、つまり生涯最後という意味。

仁左衛門というのは、個人的には、あまり
観る機会は多くはなかったのではなかろうか。
上方歌舞伎の二枚目でスマートといった印象ぐらいであった。
TVで売れっ子の愛之助は、同じ松島屋で一門の
弟子筋ということになるのか。

まあ、そんな感じではあるが“一世一代”と自ら宣言した
人間国宝の演る芝居は、仁左衛門を知るためにも、
やはり今、観ておかなければいけなかろう、と。

演るのは「通し狂言 霊験亀山鉾」。
観たこともないし、聞いたこともない芝居。

第三部、17時30分から。
内儀(かみ)さんと16時頃出て、銀座線で銀座、
三越の地下で弁当を調達。
今日は、歌舞伎観劇弁当の王道、日本橋[弁松]にしてみた。

席は、花道右脇だが、舞台直近のブロックではなく、
その後ろ。

だがまあ、わるくはないか。

プログラムを書き出しておこう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

歌舞伎座新開場十周年 二月大歌舞伎

第三部
四世鶴屋南北 作
片岡仁左衛門 監修
奈河彰輔 補綴
今井豊茂 補綴
  通し狂言 霊験亀山鉾(れいげんかめやまほこ)
亀山の仇討
片岡仁左衛門一世一代にて相勤め申し候
序幕 甲州石和宿棒鼻の場より
大詰 勢州亀山祭敵討の場まで

藤田水右衛門/隠亡の八郎兵衛 仁左衛門
         芸者おつま 雀右衛門
  石井源之丞/石井下部袖介 芝翫
       源之丞女房お松 孝太郎 
          石井兵介 坂東亀蔵
         若党轟金六 歌昇
          大岸主税 千之助
         石井源次郎 種太郎
      石井家乳母おなみ 歌女之丞
        縮商人才兵衛 松之助
        丹波屋おりき 吉弥
          藤田卜庵 錦吾
           仏作介 市蔵
    大岸頼母/掛塚官兵衛 鴈治郎
           貞林尼 東蔵

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さて「霊験亀山鉾」。

作は、あの、四代目鶴屋南北。
江戸後期、作者としては黙阿弥の一世代前、文化文政期の
第一人者。作数もかなり多く、名前は今もとても
よく知られている。代表作はお岩さんの「東海道四谷怪談」。

だが「四谷怪談」など二〜三作を除いて、現代まで
上演されている芝居は、黙阿弥に比べると圧倒的に少ない。
これがかなり不思議。有名なのに。
現代においては南北作品はレア、なのである。

初演は文政5年(1822年)江戸河原崎座。
三代目尾上菊五郎が出演ているのはわかるのだが、
今、他の看板級の役者は調べられていない。
むろん、記録はあるのだろうが、やはりレアな芝居
だからなのであろう。

この「霊験亀山鉾」は一時上演されていなかったのだが、
平成元年(1989年)国立劇場で復活上演された。
その時の座頭は吉右衛門。

その後、吉右衛門は演っていないのだが、同じく国立で
今回の仁左衛門で三回上演されている。
歌舞伎座は今回が初めて。

仁左衛門も三回しか演っていないのだが、最後の上演として
選んだ芝居。
やはり、よくよくのこと、なのであろう。

国立は、上演されなくなった芝居をよく復活させている。
むろん、文化財保護目的でよく理解できる。
吉右衛門はそれに力を貸した。
仁左衛門での再演の際には吉右衛門版から構成も
変わっており仁左衛門のアイデアも入っているよう。

お話は、仇討ち。
歌舞伎でありがちだが「亀山の仇討ち」という実話がベース。
頃は、元禄。あの、忠臣蔵の赤穂事件発生の前の年に
伊勢の国、亀山で仇討ちが完結している。
芝居のタイトル、外題の「霊験亀山鉾」は山鉾ではなく、
地名の亀山の鉾ということになるのか。

この「亀山の仇討ち」は、端緒から29年も経っている、
というのも特徴。(確認できていないが池波先生の師匠である
長谷川伸氏が「29年目の仇討ち」という作品を書かれている
よう。 三重県

ちなみに長谷川先生はライフワークといってよいほど
仇討ちものをたくさん書いている。)

イヤホンガイドによれば「亀山の仇討ち」は当時、
耳目を集め、赤穂事件にも影響を与えたという。
おそらく江戸期、仇討ちといえば人々の記憶に
残っているものの一つであったのであろう。

今回は“通し”と銘打っており、3時間と長い、
のだが、これでもかなり端折っているよう。

仇討ちに29年もかかっているので、世代も変われば、
日本中をまわる。29年間、同じ敵を追い続ける。
追われる方も29年間逃げる、、または返り討ちもあり
、、?。実際のところお金もかかる。敵が見つからず、
あきらめてしまう例も少なくなかったのであろう。
様々なドラマがあって、芝居も複雑で長くなる。
が、そこがおもしろい。
師の影響もあってか、池波先生も仇討ち、敵討ちものは
なん作もあり、私もむろん読んでいるので、おもしろさは
わかる。だが文章で読むのであればまだしも、芝居では
やはり現代的には、3時間座っているのは限界に近い。

あら筋は、例によって書かない。

主人公で仁左衛門演じる、藤田水右衛門という浪人が
敵を討たれる方で悪人。

悪人が、主人公というのがまずおもしろい。
そしてそれが苦み走った凄みのあるいい男。
歌舞伎ではこういうのを色悪という。
このパターン、意外に多いのである。
単純ないい男のヒーローよりも、ストーリーとして、
深みがあろう。

 

つづく

 

豊国 香具や弥兵へ 三代目尾上菊五郎 芸者おつま 市川門之助
文政5年(1822年)江戸河原崎座 霊験亀山鉾

初演時のもの

 

 

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