断腸亭料理日記2022

桜鍋・森下・みの家

4107号

6月11日(土)夜

さて、今日は森下の桜鍋の[みの家]。

そこそこ気温は高いが、曇り。
あまりパッとしない。

予約は4人以上。

5時頃、内儀(かみ)さんと家を出る。
森下までは、大江戸線で一本。

森下というのは江東区で深川という。
深川でも最北西部になるが、北の墨田区、本所との境は
妙なところにある。
東西に走る堅川か、新大橋通りでよさそうなのだが、
そうではない。

江戸の地図

ここには、以前、江戸の頃からの折れ曲がった堀があり、
そこが境、かと思うと、必ずしもそうでもないよう
なのである。今度理由をちゃんと調べてみようか。

このあたりの街こと「下町歩き」で詳しく書いているので
ご興味あればご参照されたい。

新大橋通り北側の[みの家]。

看板も建物もなかなかの佇まいである。

店内部もそうだが、改装はしているというが、
使われている木材などはよいものなので、都度、
再生してそのまま使っているという。
老舗も皆、ビルにすぐにしてしまうが、
一つの見識というべきであろう。

料理や、客商売としてのその店のよしあしと、
建物とは必ずしもイコールではない。
飲食店なので料理がうまいのはあたり前として、
ビルになってもサービスがよく居心地のよい老舗は
ちゃんとある。
どちらがよい、ということはなかろうが、、。

暖簾を分け、硝子格子を開けて入る。

二人といって、下足札をもらい、あがる。

中に、お二人さぁ〜〜んと声が掛けられる。

床が葦簀張りの大きな入れ込みの座敷の向こうで
眼鏡のお姐さんが手を挙げている。

座る。

下足札は、わ番。

桜鍋、一人前2,350円也。
二人前と、瓶ビール。

ビールと玉子がくる。

ビールグラスにも、桜図柄の中になべ、のこの店の印入り。
なべの“な”は変体仮名の、な。
平仮名というのは一種類ではなく、かつては色々あって、
今の平仮名以外を変体仮名というのである。

今の平仮名の“な”も元の字は、奈、で同じなのだが、
この形も少し前まで使われていた。

すぐに鍋と、ザクがくる。

鍋には桜肉と脂、つゆ、味噌。

ザクというのは、鍋の野菜などをいう。料理やの
符丁だと思うが、ある程度一般名称といってよいだろう。
ザクザク切っているから、と聞いたことがあるが
ほんとであろうか。

長ねぎと白滝とふやかした麩。

お姐さんが火をつけてくれて、ザクも入れる。

味噌が固まっているので、急いで溶かなければ
いけない。 
猪肉は、15分以上煮なければいけないが、
馬肉はあっという間に堅くなってしまう。

急げ、急げ!。

色が変わったら、すぐに食べる。

だがまあ、ねぎに火が通り、白滝に味が染み込むまでに
どう頑張っても、肉は堅くなってしまう。
これは、致し方ない。

ゆっくり食べよう。
むろん、堅くて食べられないということでは
ないのだが。

内儀さんが白滝を追加。
ここは言えば、単品でも頼めた。

白滝は、毎度書いているが、細ければ細いほど
うまいと思うのである。
ここも、そこそこ細い方であろう。

酒を頼む。

白鶴の既成の一合瓶。冷(ひや)。

ねぎも白滝も、うまい。

食べ終わり、ご飯をもらう。
この残った味噌のつゆ。

ここの味噌は、例の江戸甘味噌に八丁味噌を
入れているとのこと。
江戸甘だけだと甘すぎる、のであろう。

馬の脂が溶けだした甘い味噌のつゆがたまらなくうまい。

ご飯とお新香。

お新香の白いのはべったら漬け。

残った玉子とともに味噌のつゆを飯にぶっかける。

もしかすると、これがここで一番うまい、
のではなかろうか。

創業明治40年(1897年)。
江戸の味、ではないが、間違いなく東京の味
ではあろう。

うまかった、ご馳走様でした。


桜なべみの家


江東区森下2丁目19番9号
03-3631-8298

 

 

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