断腸亭料理日記2022
4235号
12月24日(土)夜
さて、クリスマスイブ。
クリスマスイブらしいもの、ではないのだが、
天ぷら。
天ぷら、といえば、もちろん、ご近所三筋町の
[みやこし]。
ちょっと久しぶり。
前回は夏であった。
どうしても、天ぷらというと、夏になってしまう。
なぜであろうか。
暑い時期の方が、天ぷらが食べたくなる。
真冬には鍋や、温かい汁物で、揚げ物というのは
どうしても食べたくなる頻度は減る。
また、夏は、穴子だったり、きすなど多くの天ぷら種の
魚がうまくなる。
だが、ほんとうは、もちろん天ぷらは四季によい。
真冬には白魚がある。
今は、なにか?。
はぜ(鯊)で、ある。
落ちはぜ、といって冬を前に、太り、子持ちも
出てくる。
今、はぜといえば、東京の魚やで見るのは、
青森、茨城あたりもあるか。
もちろん、江戸前でたくさん獲れた。
今もあるが、江戸、東京の屋形船、釣り船の
釣りで最も一般的であったのがはぜ釣りであった。
子供でも女性でもよく釣れると。
私の父の子供の頃、戦前、昭和一桁の頃は、
まだまだよく釣れていたのを聞いている。
今も、さすがに隅田川では見いないが、荒川だったり、
本所のスカイツリーの麓、北十間川だったり、
釣りをしている人を見ることがある。やはり
はぜは釣れるよう。
まあ、あの辺で釣れたものを食べたくはないが。
ともあれ。
5時半、ぶらぶら歩いて向かう。
三筋というのも、江戸からの地名。
今は、左衛門橋通りの東側、春日通りの南が
三筋町。
江戸の頃、幕府の下級家臣の組屋敷の区画があり、
そこには三本の南北の通りがあった。それでミスジと
呼ばれるようになった。だが、毎度書いているように
町やではなく武家地なので、正式な町名ではなく
あくまで通称の地名ではあったのだが。
暖簾を分けて入る。
先客もない。親方一人。
名乗って、どこでもいいですよ、というので、
カウンター揚場の親方の前に掛ける。
瓶ビールをもらう。
今日はサッポロのラガー。
今のキリンラガーと比べると、苦いし濃い。
昔のラガーの味ではなかろうか。
お通しは、いか下足ぽん酢しょうゆ。
頼むのは、いつも決まっている。
ご飯の付いた“天婦羅定食”の特、7,700円也。
海老から。
小さな活けの車海老。
最初は塩。
サックサク。中の海老はプッリプリ。
よくこれだけ厚くもなく、薄くもなく、
よい加減に衣が付けられるものである。
次は、天つゆで。
こういう海老天であれば、ふやかさずすぐに食べる。
伝統的な厚衣の江戸前天であれば、つゆも甘く
たっぷりひたして食べるのだが。
次は、いか。
親方が、すみいか、といって置いてくれる。
大きい。
この長さは一杯の縦の長さであろう。
夏に生まれたすみいかは、鮨やでいう新いかの頃は
2〜3cmだが、もう倍ぐらいにはなっている。
それとともに身も堅くなるのだが、天ぷらには
このくらいがよい。噛むとプチっとあまい身。
きす。
この揚げあがりも秀逸であろう。
真っ直ぐ、平ら、美しい。
カリカリでほかほか。
魚は一休みで、銀杏。
秋の味覚。
お酒お燗に。
そして、今日の目玉、真打、はぜの登場。
この時期のはぜは、この大きさ。きす並み。
腹はないので子持ちかどうかはわからぬが、身も厚い。
終盤、穴子。
江戸前天ぷらの穴子は一本で揚げるもの。
それで、この前やった煮る場合は大きい方がよいが
天ぷらは小ぶりのもの。
むろん、サックサク。
身は穴子独特の香りとうまみ。
野菜天。
左上なす、下蓮根、中央アスパラ、右椎茸。
野菜も薄衣でサックサク。
それぞれ厚みも違い質も違い、揚げる加減が
違うはずである。
この時期なので、蓮根が最もうまいか。
最後のご飯とかき揚げは天丼に。
赤だしは蜆。
かき揚げは、小柱だけかと思ったら、
白魚も入っている。
まったく、贅沢、ではないか。
うまい、うまい。
腹一杯。
ご馳走様でした。
よいお年を。
台東区三筋2-5-10 宮腰ビル1F
03-3864-7374
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