断腸亭料理日記2021

本所石原・レストラン・クインベル

3963号

10月31日(日)第二食

さて、日曜日。

内儀(かみ)さんが牡蠣が食いたいという。

それで本所石原のレストラン[クインベル]。

[クインベル]というのは、洋食というのか
フレンチというのか、たぐい稀な味覚才能を持った
シェフが長く営む、町のレストラン。

町のレストランの中では、他に比べられるところを
私は知らない。

ご飯やパン、パスタの看板メニューもうまいし
もちろん肉もあるが、魚介類が充実している。
毎年この時期からは、牡蠣。
それで[クインベル]ということになる。

町の人々がちょいと訪れる店でもあるが、
人気店であり、やっぱり予約。
18時から。

本所石原というのは、地理的にいうと両国駅の北東、
清澄通りと蔵前橋通りの交差点から東側一帯。

元浅草の拙亭からは川向うになるが、錦糸町行きの
都バスで一本。
蔵前橋通り石原一丁目で降りる。
一本北側の通りには、池波ファンであればご存知、
徳山五兵衛屋敷跡、徳ノ山稲荷神社がある。
徳山家は幕府旗本の名家で小説にもなっているように
火盗改の長官をしていたりもするが、江戸初期には
まだ未開の湿地であった川向う本所の開拓を
命じられている。それで代々ここに屋敷があった。

通りを南に渡り[クインベル]へ。

入るとほぼ満席。
といっても、大きな店ではない。
その上、小洒落てもいない。
このうまさでこの腕で、と思うが、ファンとすれば
そこがよい。

シェフはお幾つくらいなのであろうか。
かなりの無口な方なのであろう。
声はほぼ聴いたことがないと思う。
狭いカウンターの中で助手と二人で料理をこしらえている。

名前を言って、テーブルに掛ける。

瓶ビールをもらって、さて、なににしよう。

ここは壁にペタペタと様々なメニューの貼り紙がある。
これもこの店らしいのだが、あったあった、牡蠣。

それも9種類。
牡蠣専門店でもないし、もちろん並べればよい、
というものではない。しかし、余人ではないシェフの料理、
きっとどれも完成度は高かろう。

この中から二つ。
生もよいが、オーブン焼き(1320円)。
それから、洋酒蒸しクリーム煮(1540円)にしよう。

それから看板の二品。
看板は、ビーフカツサンド(1540円)、ドライカレーの
オムライス(1320円)、渡りがにのスパゲティーの三品。
三つとも頼もうかと思ったが、さすがに内儀さんに止められた。
スパゲティーは2〜3人前、これをあきらめて、
前二種、カツサンドとオムライスを頼む。

クリーム煮からきた。

牡蠣がでかい。
クリームがこってり。
とてもリッチ。

洋酒で蒸して、クリームで煮ている、のか。
洋酒というのは、なんであろうか。
ワインであればワインと書きそうだし、
ブランデーかウイスキー?。
なにかリキュール?。
クリーム煮というのはよくあるように思うが
事前に酒で蒸すという工程を経ることで
なにが起きているのか。トウシロウには
まるでわからぬが。
ともかくも、そうとうにうまい。

オーブン焼きもきた。

やっぱり、特大の牡蠣。
トマトとチーズ、ベーコンものせて
一緒に焼かれている。

単純なように見えるが、これもなんだか絶妙。
牡蠣、トマト、チーズ、ベーコン、それ以外の
味もあるのかもしれぬが、それぞれで2倍、3倍の
うまみを奏でているように思う。
流石のシェフの一品であろう。

カツサンド。

看板のビーフカツサンド。
ミディアムのよい色。
ソースはスパイシー。
うまい。

この前、自分でビーフカツを揚げて
カツサンドにした
が、あれはヒレではなく堅かった。

カツサンドの場合、ヒレでなければ?み切れず
一口でのみ込むしかないのである。(そんなことも
わからなかったのだが。)これももちろんヒレ。

そして、ドライカレーのオムライス。

オムライスのライスが、ドライカレー。

掛かっているのが、デミグラスソース。

この組み合わせ、唯一無二なのではなかろうか。
少なくとも私は知らない。

普通もちろんオムライスのライスはチキンライスなど
ケチャップライス。これがカレー味。
カレー味に、オムレツ+ケチャップ味、デミグラスソース
この三つ、四つの味の組み合わせが、絶妙の
取り合わせ、なのである。
オムライスでなくともこの味を組み合わせる例が
他にもあるのであろうか。
シェフの味を設計する端倪すべからざる才能、
というべきであろう。

うまかった。
ご馳走様でした。

 

 

墨田区石原1-25-5
03-3623-1222

 

 

 

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