断腸亭料理日記2021
3943号
10月2日(土)第二食
やっと、というべきであろう。
緊急事態宣言が終わった。
いずれ、次の波がくるのであろうから、
完全に元に戻るということは、もちろん
ないのだが、とにもかくにも外で呑める、
というのは、うれしいことである。
私のような者は複数の人間で呑んで騒ぎたいという
のではなく、うまいものを食べる時には、
やっぱり呑みたい、わけである。
で、今日はご近所、三筋の天ぷら[みやこし]。
昼、内儀(かみ)さんTELをしてみると、
予約が取れた。
女将さんが、元気な声で応対されたよう。
なんにしても、よいことである。
17:30予約なので、10分前に出る。
三筋というのは、私の住む元浅草の春日通りを
はさんで南東側、まあ隣町といってよい。
由来は古く、江戸にさかのぼる。
少し以前は、三筋も春日通りの北、元浅草側に
食い込んでおり、今の元浅草三丁目の南側一部は
北三筋町といった。
もともとは、江戸期、ここに御書院番与力・同心が
住む幕府の組屋敷などがあり、三つの南北の筋から
できていたので、三筋と呼ばれていた。
ここも武家屋敷なので、正式町名ではなく通称。
だが、当時の切絵図にははっきりと三筋“町”と
書かれているものもある。
与力・同心とは御徒町の御徒組同様、身分は旗本
ではなく基本御家人で幕府の家来でも最も身分の
軽い人々といってよいだろう。
仕事は“番”なのでやっぱり、警護。
御徒は江戸城の門などの外の警護であるのに対して、
書院番は江戸城内の将軍のいる書院など、建物の
警護という違いのよう。将軍外出時は御徒同様
もちろん従った。
ともあれ。
[みやこし]まで歩いて10分はかからない。
暖簾を分け、格子を開けて入る。
明るい店内。
白木のカウンターの向こうに白髪、短髪の
無口だがいつも柔和なご主人。
名乗って、ご主人正面のカウンターへ。
先客はカウンターの奥に年配の男女一組。
掛けて、天ぷら定食の特、6050円也、を頼む。
それからビール。
お通しは、もずく酢。
もずくは、やっぱり細い方がうまい。
初っ端は、お決まり、海老。
二匹。
最初は塩で。
しっかりした衣で、カラッと軽く揚がっている。
まきえび。
さいまき海老といっている。
名前の由来はよくわからぬが、車海老の小さいもの
のこと。
今、もちろん、成長した大きな車海老も
手に入るのだろうが、江戸前鮨でも天ぷらやでも
なぜか小さいものを使う。
以前、江戸前で獲れていた頃、この大きさで
あったのだろう。このサイズが今でもうまい、
ということであろう。
もう一匹は、天つゆで。
天つゆも絶妙。
いわゆる江戸前の濃い甘辛よりは、薄いが、
薄すぎない。
ここのご主人は、湯島の[天庄]出身。
やはり、東京の味、で、あろう。
すみいか。
ご主人も、すみいか、といって出されたが、
食感はしんいか、といってよいだろう。
まだまだ、そうとうに柔らかい。
歯があたるかあたらないかで、切れてしまう。
真正面だったので、ご主人の手元を見ることができた。
すみいかは開くと、二等辺三角形のようになる。
この一番とんがった頂点にさらに三角に切れ込みを入れ
底面部分になん本か縦に包丁目を入れていた。
まあ、いつものことだと思うが、こんなことを
していたのは知らなかった。
なんであろうか。
柔らかいいかなので、食感のためではなかろう。
あ!、そうか、反り防止だ。
自分で揚げると、くるくると、おもしろいように、
反っていた、っけ。
今度真似してみようかしら。
海老の頭のから揚げがあり、次。
きす。
この揚げあがり。
まあ、プロなのであたりまえだが、
ピーンと立っている。
私もこのくらい、揚げられたらよいのだが。
つづく
台東区三筋2-5-10 宮腰ビル1F
03-3864-7374
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