断腸亭料理日記2021

神田須田町・あんこう鍋・いせ源 その2

3970号

引き続き、あんこう鍋の、神田須田町[いせ源]。

 

あんこう鍋。

これで二人前。

食べる前に値段の話もないのだが、
一人前が3500円也。
まあ、安くはない。

[いせ源]のホームページには、戦前、昭和初期の頃
という、品書きが載っている。
これによれば、あんこう鍋50銭、ビール80銭、
御酒大同じく80銭、小45銭、などなど、ある。とある。

当時の価値でどんなものか。

円タク、円本というのを聞いたことがおありだろうか。
昭和初期、あたりであれば、いつも参考にする。

円タクは、大正から昭和初期にかけてのタクシーの
値段。
当時、東京市内均一料金で1円。
円本というのは、円タクから派生したようだが、
出版界で盛んに出された、やはり一冊1円の書籍。
ウィキによれば文学全集のようなものが挙げられている。

今の金銭感覚でいえば、数千円?。
数千でも2〜3000なのか、5〜6000なのか、7〜8000なのかで
随分と違うが、なんとなく感覚はつかめるのでは
なかろうか。

今、東京都心でタクシーに乗って、そこそこ遠くまで
乗るとどのくらいかを考えてみるとよろしかろう。
都心である。新木場から千歳烏山まで、ではない。
例えば新橋から神楽坂、といった感じ?。

MUFGのページにこんな説明があった。

結論をいえば、3〜4000円か。まあ、そんな感じか。)

今、あんこう鍋一人前3500円は、感覚的には
昭和初期よりは、多少お高いことになりそうである。
ここの座敷は、個室ではなく座敷に複数のお膳を
並べる入れ込み。
料理やでも入れ込みの方が庶民的であったろう。
そんなことを考えても、やはり今は高かろう。

そして、ビール、御酒大80銭、もっと高かった。
御酒大は二合か。
かなりの高級品であったのは驚きではなかろうか。

ともあれ。

鍋が煮えてきた。

あんこうは下煮がされており、野菜が煮えれば
食べられる。

あんこうの身、皮、プリプリでうまい。

つゆの味が、しょうゆの甘辛というのは、
江戸・東京の一般的な味ということでよろしかろう。

あんこう鍋を名物にしている茨城水戸、大洗などでは
肝を溶いて味噌味にしている。
味噌味は肝に合わせているのだろう。

だが、この甘辛のしょうゆ味というのも、
あり、で、ある。

あん肝は生では、やはり生ぐさい。
それで味噌。

だが、身、皮などは、コラーゲンと食感のよい白身。
別段くさみがあるわけではない。
ここのものは肝は、生ではなく、料理された
あん肝を鍋に入れているだけ。溶くわけではない。

これで十分うまい、のである。

つゆも、ただの甘辛ではなく、それとわかるほど
鰹であろうか、出汁を取られたものである。

ビールから酒へ。
やっぱり、ぬる燗。

そして、問題の白滝。

ちょっと縮尺がわかりにくいかもしれぬが、細い、
のである。
やっぱり、白滝は細くなければ!。

鍋も終わりが近くなったので、
おじやを頼み、お新香ももらった。

ここも、東京下町伝統の菊正宗。
しょうゆの甘辛には辛口の菊正である。

そうである。
ここへこられたら、玄関の天井を見上げていただきたい。
正方形の仕切りのある格(ごう)天井のように
なっているが、その中には菊正宗(菊の絵と正宗)が
描かれている。この建物が建てられた昭和初期のもの
であろう。まあ、今でいうタイアップであろうが、
珍しい。

鍋のつゆに、ご飯を入れて溶き玉子を入れ、おじや。

お姐さんがやってくれるので、絶対に手を出しては
いけない。
昔から、なにかしようものなら、怒られる。
かき混ぜすぎると、腰が切れてふんわり仕上がらない、
ということ。

分葱を散らし、出来上がり。

なかなかいい塩梅。

ふんわりも、甘辛も。

しかし、おじや、というのは、どこの言葉であろうか。
江戸弁であろうか。
雑炊というのが、もはや一般的になっていると思うが、
私の育った東京の家庭では、雑炊という言葉はなかった。
ご飯を汁に入れて軽く煮込んだものをおじや。
もっとゆるいと、おかゆ。
ウィキによればむしろ、おじやは女房言葉では、
とも。と、するとむしろ関西起源になろうが。
不明ということか。

ともあれ。

江戸前のあんこう鍋、うまかった、
ご馳走様でした。

立って、階段を降り、帳場で勘定。

やっぱり[いせ源]、よいものである。

 

いせ源

千代田区神田須田町1丁目11番地1
03-3251-1229

 

 

 

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