断腸亭料理日記2021

銀座・二葉鮨

3997号

12月23日(木)午後

さて、今日は銀座に買い物。
まあ、銀座といっても歌舞伎座。
芝居を観にではなく、歌舞伎座が毎年出している
来年のカレンダーを買いに。
歌舞伎の浮世絵を使ったもので毎年使っている。

ここにも書いていない通り、歌舞伎自体は、
コロナ禍以来、観に行っていない。
三部構成になり、長い芝居をやらなくなっているので
どうも今一つ観に行く気にならないのである。
私の持論だが、芝居というのはできればいわゆる“通し”
といっている、作品全部を通して上演されるものを観たい。
人気の幕だけを観ただけでは、シロウトにはほぼ
理解ができないのである。歌舞伎を初めて観る方には
絶対にお勧めしない。
まあ、コロナ禍以前も歌舞伎座の場合は通し上演は
年間でもそう多くはなかったが、とにもかくにも、
元の上演形態に戻るまで、歌舞伎座では芝居は観ない
であろう。

ついでなので、歌舞伎のことを少し。
先日、吉右衛門が77歳で亡くなった。
鬼平を演じていたこともあって、私にとっては
最も馴染みのある歌舞伎役者であった。
吉右衛門を知ったのは鬼平からだが、歌舞伎を観るようになり
人間国宝の芸というものをなん度も目の当たりにした。
ここ数年は高齢もあってか、声の張りがなくなってはいたが、
それ以前は間違いなく、立役(男役)として当代一の
存在感であった。
本物の芸というのは、私のようなシロウトにも
ちゃんと伝わるのである。
むろん、惜しい役者をなくしたとは思うが、
十二分に平成の現代歌舞伎界を牽引され、TV時代劇にも
大きな足跡を残された。
安らかにお休みいただくことを念ずる。

世代交代は世の宿命だが、今の歌舞伎界、大きな
不安を感じているのは私だけではあるまい。
支えるはずの吉右衛門の下の世代のことである。
50代、40代。どうしても、まだまだ心もとないように
見えてしまう。
そこへもってきて、このコロナ禍。
海老蔵襲名披露も伸びてしまっているようであるし、、。

前にも書いていると思うが、今、役者として存在感があり、
どこへ出しても恥ずかしからぬ大看板の芝居ができるのは、
この世代では猿之助だけではないかと思っている。
だが、門閥の世界、どうしたって澤瀉屋(おもだかや)
猿之助には、歌舞伎十八番だったり、歌舞伎王道の
芝居はさせられない、のか。
矛盾に満ちているが、それが歌舞伎界の真実なのか。
猿之助以外のこの世代各役者のさらなる成長脱皮を願うだけ
なのか。
コロナ禍はいずれ終わるだろう。
それまで、歌舞伎界がもつのか、それがただ心配。
悲観的にならざるを得ない。

閑話休題。

[二葉鮨]であった。

歌舞伎座に行くのでなにを食べようか考えて
たどり着いた。

[二葉鮨]ご存知であろうか。
取材はすべて断っているというので、あまり
知られていないが、まあ、知る人ぞ知る老舗。
創業が明治10年(1877年)という。
書いている通り、そばやもそうだが、東京の鮨やというのは、
意外にも江戸創業、明治初期創業というのはかなり少ない。
鮨はそば同様屋台でも出すもので基本は安かった。
これが原因であったと考えている。
ともあれ、希少な老舗鮨や。

場所は、晴海通り・昭和通りの交差点、三原橋の交差点
というが、歌舞伎座に向かってこの交差点の一本手前の
細い通りを左に入ってすぐ右にある。
古い木造建築の店なので比較的目に付きやすい。
それで私も存在は昔から知っていた。

地図を出そう。現代。

明治15年。

明治当時は、ここは銀座ではない。三十間堀があり、
その向こう側で、木挽町三丁目か。昭和通りもない。
昭和通りは関東大震災後。三十間堀が埋められるのは
戦後、戦災のガレキを埋めた。

これが、現外観。

店の外に、屋台のような設えがあるのが特徴であろう。
かなりクラシックだが、銀座は焼けているので
戦後の建築と思われる。

昼の営業は14時までなので、13時半頃到着。
予約もしていない。
ちょっと、おそるおそる入ってみる。

店内は撮影禁止。
(朝日新聞にこんな記事があったので参考まで。)

先客はなし。
いらっしゃいまし〜、のクラシックな声で
迎えられる。

カウンター向こう側、つけ場に二人。
奥が年配、手前が若い。奥が五代目親方か。

一人といって、手前の若い方の前に掛ける。
この方は六代目か。

注文は、一人前。
お茶をもらって待つ。

気が付いたのだが、このカウンター、アールが
付いているのである。
赤味がかった塗りのようだが、一枚板とのこと。
普通曲げる場合は、直角に曲がる。この角に、親方が立つ。
丸く曲がったカウンターというのは初めてである。

一人前は、鯵、甘海老、鯛、まぐろ中とろ、青柳、
穴子、鉄火巻、干瓢巻、玉子。
出される端から食べる。
穴子が秀逸。むろん炙ってあり、温かく溶ける。

追加で、好きな小肌、鯖、いか。

いかはすみいか。
小肌は小ぶりの開いた一匹を斜めに美しくにぎっている。

鯖はかなり〆が浅い。
ひょっとして、生か。

お茶をお替り。

勘定は、5000円ちょい。

ご馳走様でした。

昔の銀座はこんな感じであったのか、という印象。
アールの付いたカウンターは当時、挑戦した姿か。
むろん特注で高かろうし。それ以外の内装も凝った
数寄屋風といってよさそう。
今、銀座だが、値段も質も超高級店ではない。
小肌など、技は確かであろうが、私が通う浅草
[弁天山美家古寿司]のように昔の技を残すことを
標榜しているわけではない。
近所であれば通いたい。
間違いなく残ってほしい鮨やであろう。

 

03-3541-5344
中央区銀座4-10-13

 

 

 

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