断腸亭料理日記2020
10月30日(金)第一食
そろそろ、こんな季節になってきた。
池波遼太郎レシピ「鶏と大根の鍋」
で、ある。
簡単なので、毎年やっている。
(池波正太郎著「仕掛人・藤枝梅安(四)梅安針供養・
あかつきの闇」講談社文庫から)
梅安シリーズ初の長編。
この一巻で一つの話になっている。
池波作品人気3シリーズ「鬼平犯科帳」「剣客商売」
「梅安」とあるが、鬼平、剣客は、全体を通すストーリーは
ほぼないといってよいと思うが、梅安シリーズは全巻を通す
大きなストーリーがある。もちろん、一話読み切りが基本だが、
そこにもベースを通すストーリーを背景にしている。
これが特徴であろう。
特に、この四巻針供養は、固有のストーリーもありながら
ベースストーリーを進める役割を強く持っている。
そんなこともあって、登場人物もそこそこ多く、
筋が複層し、謎解き、ミステリー要素も仕掛けられている。
今回改めて読み直してみた。
むろん、なん度も読んでいるのだが、このところ少し
離れていたのであった。
それで、改めて気づかされたのは、周到に作られた筋立てと
おもしろく読ませる構成力である。
元来、池波作品は大衆小説であり、気軽に読める。
難しくはない。
先生自身、そのスタンスをアイデンティティーといってよいほど
貫かれてきた。
この針供養も、実際は大身旗本のお家騒動という
誰にもわかりやすい基本ストーリー。
読み終わって、謎解きが終わっても、
どうしてもわからない、謎だらけ、難解な
ミステリー小説もあるが、この作品はそんなことは
一向にない。読み終わればきれいに解決される。
途中、ハラハラドキドキ、謎、謎、、、を抱かせるのは
先に書いた、構成力。
池波先生の場合、3シリーズ月刊連載同時進行で、
エッセイなどを読んでも、事前に別紙にプロット設計、
構成の検討などはせずに、いきなり原稿用紙に
向かわれているようにみえる。
同じ長編ものも鬼平、剣客にあるが、ストーリーは長いが
時系列に進みあっと驚くトリック、謎はあまりなかった
のではなかろうか。
そういう意味では、この梅安針供養は、通常以上に
時間を費やして書かれたのではなかろうか。
そして、読みごたえがある。
舞台は、いつもの品川台町の梅安の自宅兼針医者としての診療所、
浅草外れの塩入土手の彦次郎の自宅。これに今回は小杉が潜む葛飾郡
新宿(にいじゅく)の布海苔(ふのり)問屋下総屋の離れ屋、
戦う相手となる下谷御徒町の大身旗本池田備前守屋敷、などなど
江戸府内、郊外と飛び回る。
季節は江戸の「秋が深くなる」頃に話を起こし、大きな仕掛けを終え、
少なからぬ後味のわるさを残す。追われるように梅安、彦次郎、小杉の
三人は江戸を立ち、熱海の湯につかり骨休めをするまで。
そんなところに、この「鶏と大根の鍋」が出てくる。
梅安お手製である。
大根を鶏の出汁で煮るだけ。
作品中は、薄味を付けて、油揚げも入れている。
私の場合はつゆに味は付けずに、しょうゆだけを直接掛けて
食べるようにアレンジしてきている。
まあ、どちらにしても、誰でも簡単にできて、
うまい、のである。
用意するのは、大根と鶏の手羽。
手羽は出汁も出るし、脂も出る。
また、食べてもうまい。
ただ、やはり、よく煮出した方がよい。
柔らかく食べやすくもなる。
大根も火が通るのに多少の時間が掛かる。
それで、圧力鍋。
まあ、圧力鍋がなければ、柔らかくなるまで煮ればよい。
大根は皮をむいて、2cm程度の幅に切り、さらに1/4。
これを鶏手羽とともに、水を張った圧力鍋へ。
ふたをして加熱加圧上がったら弱火で5分、後は消火、放置。
30分後。
煮えた。
まったく簡単。
これを土鍋に移して、カセットコンロを出し
お膳で食べるだけ。
酒でもよいが、やっぱりまだビールを開ける。
大根。
しょうゆだけを掛ける。
まったく簡単なものだが、作中にも書かれている通り、
こんなものが、と思うほど、うまい。
手羽。
手羽も柔らかく煮えている。
もちろん、つゆも、うまい。
飯を入れて雑炊にしても、うまいのだが、
さすがに、それはやめる。
うまかった、うまかった。
兎にも角にも、
そろそろ、晩秋、で、ある。
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