断腸亭料理日記2020

鴨ぬき、鴨せいろ その1

11月1日(日)第二食

11月になった。

霜月。

晩秋。

11月になったら、鴨、で、ある。
鴨南蛮。

これはもちろん、浅草並木の[藪蕎麦]

なのだが、最初は、自作しようと決めた。

先日、鴨南蛮は季語であることがわかった。

では、鴨南蛮を使った俳句にはどんなものがあるのか、
気になってくる。
調べてみた。

意外に、最近のものが多そうである。


先口の鴨南蛮(かもなん)忘れ居らぬかや 高澤良一


蕎麦やでの、あるある。
先口は、せんくち。先に頼んだ私の鴨南蛮がこない。
なかなかよいではないか。

次。


二十日正月鴨南蛮を喰ふもよし 田中貞雄


今はもう言わなくなっているが、二十日正月は
正月行事の開ける日。お節やら正月にまつわる食べ物から
離れて、鴨南を喰う。

もう一つ。


末枯れやカレー南蛮鴨南蛮 田中裕明


末枯れは、うらがれ、と読む。
晩秋の枯れた草木、その寂しい様子。
この句では鴨南ではなく、末枯れが季語になろう。
末枯れに、下世話なカレー南蛮、鴨南蛮を
重ねているところが、詩人であろう。

三人とも名のある俳人の方々である。
田中裕明氏が45歳で亡くなられているが、生まれは1959年で
年代とすれば一番下。他のお二方は高齢だがご存命のよう。

これ以外にネットでは見つからなかった。
鴨南蛮が、俳句に詠まれ、季語として認知されるのは
戦後、あるいは最近のことではなかろうか。

これは取りも直さず、鴨南蛮がポピュラーになったのは
そう昔のことではないということではなかろうか。

鴨南蛮そば、というのが、例えば浅草並木の[藪蕎麦]で
出されるようになったのは、いつ頃からのことで
あろうか。
並木[藪蕎麦]は大老舗のようだが、創業は明治ではなく、
大正2年(1913年)。先日の上野[翁庵]よりも新しい。

鴨南蛮はそばの中でも、かなり高級で、趣味的、
と、いってもよいかもしれない。昔も今も。
ただ、大正であればあったかもしれぬ。

もちろん、鴨自体は、江戸期の江戸でも食べられていた。
鴨鍋として。しかし、レアで鶏よりも大ご馳走であったろう。

蕎麦の種として使われるのは、ずっと時代が
下ってからのことではなかろうか。

天ぷらそばは、例の歌舞伎「直侍」には出てくる。
これは明治の初め。
また、ここに天(ぷら)のぬき、玉子のぬき、は出てくるが
鴨のぬき、というのは出てこない。

そんなことを考えていたが、ちゃんと調べると、
幕末の博物誌、定番の「守貞謾稿」には既に鴨南は出てくる。
意外に古いか。ただ、やはり高級なものではなかったか。
どのくらいポピュラーであったのか。

天ぷらはさらに20〜30年ほど前、文政10年(1827年)の
川柳に出てくるよう。
これより前からあったということにはなる。
鬼平には出てくる。作品の時代設定は、田沼時代。
文政10年までは30年程度の間がある。池波先生は
考証されていたのか。わからぬが田沼時代はちょっと
怪しいかもしれない。
いずれにしても、やはり天ぷらそばと鴨南には文献上は多少の
時代の差があったようである。

さても、さても、鴨南蛮。

鴨は、昼すぎ、ハナマサで、冷凍の合鴨胸肉を買ってくる。
よくある鴨ロースというのは胸肉。

タイ産。一つ300円程度で意外に安い。

これを少し切って、叩いてつくねにし、つゆに入れて煮る。
つくねが一番鴨の出汁が出る。
あとは、きれいに焼いて、スライスで入れる。

作るのは、鴨南蛮ではなく、鴨ぬきと、鴨せいろ、
で、ある。

鴨をそばにするのであれば、鴨南よりも
鴨せいろの方が、よいだろう。
扱いやすい。
呑んだ後に、ざるで手繰るのがちょうどよい。

生蕎麦も買っておいた。

カチンコチンなので、パックのまま水に入れて
解凍しておく。

作る。

溶けた胸肉はこんな感じ。皮側。

裏。

これを1/4ほど切る。

脂身も身も細かく切って、叩く。

これをつくねにする。

残りは焼く。

どう焼こうか考えたのだが、例の新グリルで
焼いてみようか。

 

つづく

 

 

断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5|

2004 リスト6 |2004 リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10 |

2004 リスト11 | 2004 リスト12 |2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005 リスト15

2005 リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20 |

2005 リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006 6月

2006 7月 | 2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006 12月

2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月 |

2007 8月 | 2007 9月 | 2007 10月 | 2007 11月 | 2007 12月 | 2008 1月 | 2008 2月

2008 3月 | 2008 4月 | 2008 5月 | 2008 6月 | 2008 7月 | 2008 8月 | 2008 9月

2008 10月 | 2008 11月 | 2008 12月 | 2009 1月 | 2009 2月 | 2009 3月 | 2009 4月 |

2009 5月 | 2009 6月 | 2009 7月 | 2009 8月 | 2009 9月 | 2009 10月 | 2009 11月 | 2009 12月 |

2010 1月 | 2010 2月 | 2010 3月 | 2010 4月 | 2010 5月 | 2010 6月 | 2010 7月 |

2010 8月 | 2010 9月 | 2010 10月 | 2010 11月 | 2011 12月 | 2011 1月 | 2011 2月 |

2011 3月 | 2011 4月 | 2011 5月 | 2011 6月 | 2011 7月 | 2011 8月 | 2011 9月 |

2011 10月 | 2011 11月 | 2011 12月 | 2012 1月 | 2012 2月 | 2012 3月 | 2012 4月 |

2012 5月 | 2012 6月 | 2012 7月 | 2012 8月 | 2012 9月 | 2012 10月 | 2012 11月 |

2012 12月 | 2013 1月 | 2013 2月 | 2013 3月 | 2013 4月 | 2013 5月 | 2013 6月 |

2013 7月 | 2013 8月 | 2013 9月 | 2013 10月 | 2013 11月 | 2013 12月 | 2014 1月

2014 2月 | 2014 3月| 2014 4月| 2014 5月| 2014 6月| 2014 7月 | 2014 8月 | 2014 9月 |

2014 10月 | 2014 11月 | 2014 12月 | 2015 1月 |2015 2月 | 2015 3月 | 2015 4月 |

2015 5月 | 2015 6月 | 2015 7月 | 2015 8月 | 2015 9月 | 2015 10月 | 2015 11月 |

2015 12月 | 2016 1月 | 2016 2月 | 2016 3月 | 2016 4月 | 2016 5月 | 2016 6月 |

2016 7月 | 2016 8月 | 2016 9月 | 2016 10月 | 2016 11月 | 2016 12月 | 2017 1月 |

2017 2月 | 2017 3月 | 2017 4月 | 2017 5月 | 2017 6月 | 2017 7月 | 2017 8月 | 2017 9月 |

2017 10月 | 2017 11月 | 2017 12月 | 2018 1月|2018 2月| 2018 3月|2018 4月 |

2018 5月 | 2018 6月| 2018 7月| 2018 8月| 2018 9月| 2018 10月| 2018 11月| 2018 12月|

2019 1月| 2019 2月| 2019 3月 | 2019 4月| 2019 5月 | 2019 6月 | 2019 7月| 2019 8月

2019 9月 | 2019 10月 | 2019 11月 | 2019 12月 | 2020 1月 | 2020 2月 | 2020 3月 |

2020 4月 | 2020 5月 | 2020 6月 | 2020 7月 | 2020 8月 | 2020 9月 | 2020 10月 | 2020 11月

BACK | NEXT

(C)DANCHOUTEI 2020