断腸亭料理日記2020

燗酒とがんもどき〜適燗のすすめ

11月9日(月)第二食

がんもどきの方は、ちと手数がかかる、
と申しまするのは、入るものがございます。
へぇ。
蓮にごぼうに紫蘇の実なんてぇーものが入りまして、
蓮の方は皮をむきまして、四つに切りまして、
トントントンとすぐに使えばよろしいんでございますが、
ごぼうの方は、皮が厚く、厚くむいては、いけないんで
包丁でなぜるようにして、むくんでございまして、
すぐ使うとアクがあって、いけないんでございまして、
いったんはアク出しをいたしますが、
紫蘇の実もある時分にはよろしいんでございますが、
ない時分には塩漬けになったものがございまして、
そのまま使うと塩っ辛くていけないから、いったんは
この塩出しをいたしますが、あんまり塩出しをいたしますと
味がわるくなると、、、油がよけいに、、

なにを言ってるんだ!。
誰ががんもどきの製造法をきいてるんだ!。
豆腐やが来るのか来ないのか。!

へい。お生憎様です。

〜〜〜〜

いきなりだが、これ、なんだかお分かりになろうか。

落語「寝床」。
それも八代目桂文楽師の、一節。

「がんもどきの製造法」。

「寝床」という噺は、ドラえもんのジャイアン
リサイタルの元ネタ。
義太夫に凝った大店の旦那が、まずい義太夫を
店子や店の者に無理矢理聞かせるという噺。
当初、皆が断ったというくだりで、豆腐やは
厚揚げと、がんもどきの注文を急にたくさん受け、
で、がんもどきというのは、、
で、先の台詞になる。

「寝床」という噺は、戦後の三名人、志ん生、文楽、
圓生と三人とも演った、珍しい噺だが、
この「がんもどきの製造法」のくだりが入るのは
文楽師のみ。
オリジナルではなく、あったものらしいが、師の
この噺の中では、1〜2を争うほどの傑作台詞
ではあろう。


今夜、なにを食べようか。
あまり今日は、食欲もない。

元浅草4丁目、菊屋橋町の豆腐や[小松屋]の
前を自転車で通りかかった。

豆腐!、、もいいか。
湯豆腐、か。

自転車をとめて、店に入る。

と、ショーケースに、、がんもどき。
大、中、小とある。
がんもどきを煮たのは、よいぞ。

小は直径3cmほど、初めて見た。
ここは、近所で一番近いところにある豆腐やさん。
そこそこよく覗くが、新製品か。

ご主人がすぐに出てきて、なんにしましょう?。
がんもどき、、、
中を三つ。

でかい、がんもどきも好きだが、
大はでかすぎる。切ることになってしまう。
中といってもそこそこ大きい。

よし。
今日は、これで燗酒だ。

帰宅。
がんもどきを煮る。

酒、しょうゆ、水。
これだけで煮る。
出汁は入れない。がんもどき自身から
出汁が出る。

ちょっとくたっとする感じが好きである。
つゆは、そこまで濃くなくてもよい。

10分ほど煮て、30分以上置く。
置いている間に、つゆが染み、くたっと、
してくる。

火熾しに炭を入れ、ガスにかける。
熱くなったら火鉢にいける。

このまま鉄瓶を掛けてもよいのだが、沸騰するには
時間が掛かるので、あらかじめガスで熱くして
火鉢へ。

一合徳利に酒を入れ、鉄瓶に突っ込む。

酒はもちろん、常備の菊正宗。
東京のしょうゆ味には、辛口が最も合っている。
また、私は燗をすることが多いので、それも生モト
(酉、とりへんに元。)系の菊正の得意技。

別段、温度は計らぬが、熱くもない、ぬるくもない
上燗、適燗。

燗酒=熱燗、と思っている人が最近は多いが、
熱燗は日本酒にはあまり勧められない呑み方である。
ご愛読の諸兄は聞き飽きているかもしれぬが、
やっぱり、繰り返し書いておきたい。

湯気が出るほど温めると、日本酒の味は落ちる。
それでも、どうしても熱燗がよい、というのであれば
止めないが、熱燗は断じて燗酒のデフォルトではない。
燗酒といえば、無意識に熱燗というのは、やめようでは
ないか。

燗酒といえば、熱くもぬるくもない、上燗。
適燗。45℃〜55℃。熱燗はその上の55℃〜60℃。
(菊正宗)

少なくとも、上燗、適燗という温度があることぐらいは
知っていてほしい。居酒屋もなにも言わなければ上燗、
適燗を勧めてほしい。
#熱燗はやめてくれ

そんなことで、燗がついて、がんもどきと、
昨日の小松菜と浅利むき身の煮びたし。

[小松屋]のがんもどきには、黒胡麻とにんじんが
入っている。黒胡麻のプチプチとした食感がたのしい。

がんもどきの煮たの、うまいもんである。

 

 

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