断腸亭料理日記2020
11月8日(日)第二食
さて。
今日は、浅利と大根の鍋。
ちょっと久しぶり。
先日の鶏と大根の鍋に続いている。
これも、池波レシピ。
奇しくも、なのか、必然かこれも梅安。
先日は、4巻だったが、これはその前の3巻。
梅安最合傘の表題作、最合傘。
梅安最合傘 仕掛人・藤枝梅安(三) (講談社文庫)
こちらは、一回の読み切り。
舞台は、ほぼ今の台東区で完結している。
梅安が馴染みにしている、橋場の料亭[井筒]。
もちろんここには“馴染み”にしている女中おもんがいる。
そして、橋場の北、塩入土手下の梅安の相棒彦次郎の自宅。
仕掛の相手の住まいが金杉上町から西に入った
根岸円光寺の持ち家。
円光寺は今もある実在の寺。お行の松もすぐ近く。
まあ、梅安の住まいである品川台町も出てはくる。
これに浅草駒形町の蝋燭問屋越後屋、同新寺町の
書物問屋和泉屋。
新鳥越町二丁目の町屋、浅草山之宿の[駕籠駒]、、。
今の浅草通りから北側でほぼ完結している。
先生は浅草聖天町の生まれで、同永住町の育ち
であり、まあ、庭といってよいだろう。
私も、今は永住町の南隣の七軒町に住んでいるので
読みながら、地図と実際の土地を思い浮かべることが
できて愉しい。今回も読み直すのに、切絵図を出して
照らし合わせながら読んだ。
時代小説家でも、すべて匿名、創作として
書く人もいる。どうであろうか、昔は匿名は少なかった
のではなかろうか。
池波作品も創作、架空の寺などもあるが、地名や
土地の様子などは、ほぼ実在のものを書かれている。
江戸の街を舞台にした場合、東京浅草生まれの池波先生は
架空の町名、地名を使うとこは考えられなかったのでは
なかろうか。
ついでだが、落語も実際の地名、町名を使う。
「黄金餅」は下谷山崎町の貧乏長屋。実在した場所。
実際に、下谷山崎町が貧民窟であったことは
江戸期から知られていた。
現代的には、架空の設定にするのが最早正しいと
されること、かもしれぬが、私は、これには基本的に
疑問に思っている。
これは、民俗学やら日本史を専門として勉強をした
ことが大きいのであろう。
むろん学問として研究する立場であれば、正しい歴史として
負のものも、いや、負のものであるからこそ、真の姿を
明らかにする必要があるだろう。
ただ、エンターテインメンとしての時代小説、
あるいは、私の今書いている、この雑文も、
学術研究ではない。
自ずと、知っていても書かない方がよいと思うことも
あり、そうしてもいる。池波先生もおそらくそうであったろう。
だが、時代小説として、あるいは江戸落語として、
実際の地名、町名を使い、リアリティーを持った
物語として語られる方が、作品性は高いのではないかと
思うのである。知っている人間には、より愉しい。
やはり、歴史としいうものは負のものも含め、
皆が正しく理解することが本当の姿であると、思っている。
ただ、今はまだまだハードルは高いが。
余談が長くなってしまった。
浅利と大根の鍋。
浅利はむき身を使う。浅利むき身は、大井町の生まれ育ちの
祖父母の食卓には、馴染みの深いものであった。
特に、私も覚えているのは、小松菜との煮びたし。
これも作ろう。
吉池で浅利むき身を3パック。
油揚げも入れる。
1パックと油揚げ、小松菜で先に煮びたしを作る。
しょうゆと酒のみの塩辛い味。
大根は先日のものを千切り。
これを一応魚介系だしパックで出したつゆに、
浅利と小松菜を煮た濃い煮汁も入れたものを
鍋の出汁にする。
大根千切りと浅利むき身。
それからむき身と小松菜の煮びたし、めかぶぽん酢しょうゆ。
小松菜と浅利むき身の煮びたしは、東京らしい
おかずであろう。むろん、小松菜は小松川の菜っ葉で
江戸野菜の代表。また浅利むき身は、今に比べれば
そうとうに安いものであったと思われる。
これを濃いしょうゆ味で煮る。
私にとっては故郷の味。うまいもの、で、ある。
鍋。
千切りなので、すぐに煮える。
ビールを開ける。
煮えたら皿に取って、食べる。
ほんとは、山椒をかけるのだが、切れていた。
浅利には、苦みがあるので、できれば山椒はほしい。
だが、このつゆがまた、うまい。
腹に染み渡る。
作品では飯に掛けて食べていた。
簡単でうまい。
浅利むき身と大根の鍋、で、ある。
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