断腸亭料理日記2020

浅草・並木・藪蕎麦

6月9日(火)第一食

さて。
今日は、浅草。

暑いので、田原町の担々麺[阿吽]

にでも行こうか考えた。

担々麺といえば、ここであろう。

が、来てみたら休み。
定休であった。

開けているのは見ていたのだが。

さて。
実は[阿吽]に決める前に、考えていたのは
並木[藪蕎麦]

[藪蕎麦]であれば、どうしても一杯呑みたいので、
ちょっと躊躇があったのである。

人が少なければ、よいか。

もう一年以上きていない。
昨年の春前が最後であったか。

まあ、申し訳ないがかなり残念な状態であった。
土日といわず終日列。内外の観光客であふれ、とてもこの店らしい
接客ができていない。むろん雰囲気も。

粋で気の利いたのがこの店が掲げるポリシーといっても
よいものではなかったろうか。
あれだけメニューも変えない、内外の設えも変えない
ストイックともいえる浅草の看板そばやが、で、ある。
野暮なお客には、野暮な接客をせざるを得なかった
のであろう。 あながち店だけを責めるべきではなかろうが。
ただ、そんな状態に接するとやはり、もはやここへ
行く意味は私には思い浮かばなくなる。
居心地がわるいことこの上ない。
店の方が、本当のところ、どう思われていのかはわからない。
私の思い込みだけかもしれぬ。

今、どんなものか。
田原町からまわってみた。

1時はすぎている。
暖簾は出ている。

2〜3人の出る客があった。

入るとアルコール消毒があって、消毒をするよういわれる。

今、人が出て、かなりの空席。
やはり座敷も、テーブルも席の数を減らしているよう。

一番奥、菊正の一斗樽の前のテーブルがあいている。
樽の前がよかろう。

掛けて、板わさとお酒、冷(ひや)で。
それから、天ぷら。

聞き返されもせず、
すぐにきた。板わさとともに、冷で一合。

さすがに、静かになれば、こうである。

昨年などは、常温ですか?などと野暮なことを
聞き返すお姐さんがいた。

硝子のコップに注ぎ、呑む。

あ。
喉が渇いていて、一杯、一気に呑んでしまった。

昼時のお客が去ったのか、お客は私と、座敷にいる高齢の
女性だけの二人になった。

静かな店内。

天ぷらもきた。

これは、酒の肴の天ぷら。1900円也。
頼むのは初めてかもしれぬ。

アップ。

ちょっとピンぼけであった。
海苔、その隣が芝海老だが、頭を付けたまま、一匹で
揚げたもの。
しし唐があって、筏の形にまとめて揚げた海老。
これも芝海老であろうか。
あるいは、かなり小さな車海老か。

海苔が秀逸であった。
海苔の天ぷらは別段珍しくはないが、実にカラッと
揚がっている。ちょっとジトっとしてしまうのが
多いように思う。

食べ終わり、ざるを一枚。

徳利からそば猪口につゆを全部開ける。

わさびは箸先にちょいとつけて、そのまま一口分の
そばを箸で取る。
そば猪口は、左手で持つ。
つゆに、先の方だけつけて、一気に手繰り込む。
噛むのは一回か二回。
ほぼ噛まずに、飲み込む。

毎度書いているが、そばを手繰る動作、作法は、
とても大事である。
東京の男にとって。

先日も書いた

かの五代目菊五郎は歌舞伎「雪暮夜入谷畦道
(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)」

で江戸の男がそばやでどう振舞うのか、演じて見せていた。

昨年であれば、こんなことを考える方が、むしろ野暮、
場違いであった。

ともあれ。
一気に手繰り込み、勘定。

戸口前でまたアルコール消毒をして、出る。

かなり複雑な思い、である。
これが平常ではないのはわかっているが、
人がいなくなって、昔に戻り、落ち着ける。
この店らしい。
この矛盾、どう考えたらよろしかろう。

 

 

03-3841-1340
台東区雷門2丁目11−9

 

 

 

 

 

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