断腸亭料理日記2020
引き続き、歌舞伎座の初芝居。
二番目の「袖萩祭文(そではぎさいもん)」。
主役ではないが、浜夕役、市川笑三郎。
私は、この人の芝居を観たことがあったであろうか。
初めてかもしれない。
先代猿之助の弟子筋で、澤瀉屋(おもだかや)。
当代猿之助は夜の部に出演ている。
零落した袖萩の母親役。
かなり力量の要求される重要な役であろう。
なんといっても台詞が聞き取りやすい。
声が出ている。よい声で存在感がある。
これは、現代においてとても大事なことなのではなかろうか。
昨日今日歌舞伎を観始めた私のような者には、
大看板でも口跡が今一つで聞き取れないだけで、芝居に入れなく
なってしまうのである。
49歳とそこそこのお年のようだが、女形として、
もっと様々な役が期待できるのではなかろうか。
八幡太郎義家の七之助。
ここ数年の奮闘が伝えられている。
心境著しいのではなかろうか。
男役だと若衆、色若ではなく、源氏の旗頭としての存在感は
十分であった。
さて、三番目。
「素襖落(すおうおとし)」。
新歌舞伎十八番という。初見である。
明治25年(1892)東京歌舞伎座初演。作は福地桜痴。
能狂言から取った、いわゆる松羽目(まつばめ)もの。
主演は吉右衛門。
能ではなく、狂言からで、同名のものがあるよう。
踊りもあったりするのだが、まあ、長いコントである。
狂言のこの話も観たことはないが、どのくらい違うの
であろうか。
正月らしくて気楽でよい、という言い方もできるのだが、
はっきりいって、おもしろくない。申し訳ないが退屈。
もちろん、人間国宝吉右衛門先生が奮闘されているので
わるくは言いたくないのだが。
近年も、比較的よく上演されているようであるが、
評判がよいのだろうか。
私にはこれ、国立劇場などで、こんな芝居もあったという
文化財的価値を保存、見せるために演るという種類の
芝居だと思うのである。それ以上の現代的価値は見当たらない。
さて、四番目。
待ってました「河内山」。
「松江邸広間より玄関先まで」。
河内山を観るのは三回目になる。
いや、吉右衛門のDVDも持っているので、実際に観ている
回数はもっと多い。
今回は白鸚。
白鸚、吉右衛門兄弟が同じ役を演っていることは多い。
吉右衛門は人間国宝。白鸚はそうでない。
やはり、私のようなものが観てもその差はあるように
感じられるのが偽らざるところである。
ただ、この「河内山」の白鸚は吉右衛門と比べても
なんら遜色はなく、素晴らしい。今回もよかった。
さて、今回の河内山。
「松江邸広間より玄関先まで」なので、ほぼ、河内山の
七五調の名台詞を聞かせるための芝居といってよい。
ただやはり、この芝居、ここだけみせられても現代の観客に
伝わるのか、という疑問は出てはくる。
せめて、河内山のこの前の場「上州屋見世先」を付けた方が
わかりやすいだろう。
で始まる、河内山の七五調の名台詞。
今日も「待ってました!」の声が、大向こうからかかっていた。
やはりこれを聞きにくる芝居。
しかし、で、ある。
この芝居「天衣紛上野初花」は世話物の範疇に入るのであろうが、
河内山の部分、特に、今回上演の部分に登場するのはすべてが武士。
つまり、言葉が難しいのである。
黙阿弥翁の代表作の一つであることは間違いないが、やはり、
初心者にはかなりハードルが高いだろう。
なかなか、難しい。
私が、この芝居で最も好きな台詞。
幕、間際。
してやったりと、河内山は、花道七三(しちさん)へ
下がってくる。
ふり返り、奥から出てきた、松江出雲守に
「ぶぁぁ〜〜〜かめぇぇぇ〜〜〜〜〜!」(バカメ)。
これがなにしろ、痛快。
してやったり。
七五調の名台詞もよいのだが、やはりここでは
なかろうか。
これが聞きたくて、この芝居を観る。
そんな台詞である。
実にきれいに、いい気分で幕。
後味爽快。
まさに、痛快!河内山である。
(「痛快!河内山」は1975年勝新太郎主演で、
河内山がドラマ化されていたもの。)
国周 九代目市川團十郎 市川団十郎演芸百番
河内山宗俊 明治36年(1903年)
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