断腸亭料理日記2020

軍鶏鍋

8月16日(日)第二食

さて。
軍鶏鍋、で、ある。

暑いときに、熱い軍鶏鍋。
毎度書いているが、元々は、暑い時に暑気払い、
元気になるために食べるというものであった。

もちろん、私の場合は、池波正太郎の代表作、
言わずと知れた「鬼平犯科帳」シリーズが
入口であった。

作品では本所二つ目橋の北詰にある軍鶏鍋や[五鉄]。
長谷川平蔵率いる、火付盗賊改の本所、深川の
駐在事務所のような役割を与えられていた店。
相模の彦十もここに住んでいた。

実際に江戸期、どのくらいの軍鶏鍋やがあったのか。
調べたことはないので、わからない。
一般的なものであったとは考えられるのだが。

少なくとも、明治大正の頃には、東京、特に下町
浅草、下谷、神田、日本橋などには、軍鶏鍋、鳥すき、
鶏料理を看板にする店は、かなりの数あった。

軍鶏鍋、鳥すき、と両方書いたが、軍鶏というと、
現代的には、文字通り、鶏の品種としての軍鶏を使わないと、
軍鶏鍋とは言ってはいけないことになろうかと思うが、
以前は、広く鶏の甘辛のすき焼きを軍鶏鍋といっても
問題はなかったであろう。

そんなことで私は、軍鶏を使っているわけではないが、
鬼平で使われている、軍鶏鍋という名前を使っている。

そういえば、落語にはズバリ軍鶏鍋、鳥すきという名前が
出てくるのは聞いたことがない。ないのではなかろうか。
私はちょっと、思い浮かばない。

軍鶏鍋という言葉は出てこないが、
唯一思い出すのは先代金馬師の「藪入り」。
奉公に出ていた子供か初めての休み(藪入り)で
家に帰ってくるというので、父親は母親にあれも
買っといてやれ、これも食べさせたい、という中に
「軍鶏を買っといてやんな。皮付きで、モツ混じりで」
というフレーズがある。
これはおそらく、軍鶏鍋・鶏すきが頭にあると思われる。
金馬師のフレーズは、時代としては江戸ではなく
明治、大正であろうと思われるが。

軍鶏鍋・鶏すきには、必ず、モツ(レバー)と皮が入る。

今、東京で軍鶏鍋・鶏すきの店はそう多くはない。
神田須田町の[ぼたん]

ここは池波レシピ。先生ティーンの頃、ここへ寄って、
吉原へなんという。

両国の[ぼうず志ゃも]

ここは店名の「ぼうず」という名前だけ
先代文楽師の「船徳」に出てくる。

そして、最も有名な人形町[玉ひで]など。

鬼平では笹掻きのごぼうが入るが、店ではごぼうはなく、
ねぎ、しらたき、鶏のつくねなどが共通して入っている。
レバーなどモツは共通するが、ごぼうが入ったものは
今はないのではなかろうか。

用意は鶏もも肉、レバー、皮。
野菜はやっぱり、ごぼうのみ。
全部ハナマサ。

つくねも作ってみよう。
もも肉を少し叩いておく。

もも肉、皮、つくね。

レバー。

ごぼうは笹掻きをして水につけておいたもの。

玉子も用意。

鍋はやっぱりすき焼き用の鉄鍋。

お膳にカセットコンロ。

皮から先に入れ、脂を出す。

脂が出てきたら、もも肉、レバー、ごぼうを入れる。

割り下。
割り下はいつもは自分で作っていたが、
今日は、冷蔵庫にあった雷門[松喜]のすき焼き用の
割り下を使うことにした。
別段、鶏でも問題はなかろう。

煮えてきた。

もも肉、ごぼうよりも先に、レバーに火が通る。
もちろん、半生程度でもよい。

玉子をほぐし、くぐらせて、食べる。

つくねもスプーンで形にして、入れる。

つゆの多い鍋ではないので、団子ではなく、
ハンバーグのような、平らな形にした方が火が通り
やすい。

まったくつくねには味を付けなかったが、
ちょっと物足りない。
もも肉同様、これも煮えるには時間がかかる。
火を通すのと同時に照り焼きのように、よくつゆを
からめないといけない。

つくねは初めてやってみたが、コツのいるもの
で、ある。

この鍋、ポイントは脂、で、ある。
皮を別に入れるのも然り。
レバーも思った以上に脂がある。

ごぼうというのは、脂(油)との相性が格別によい。
甘辛のつゆと脂の染みたごぼうは、なにより
うまい。

もも肉もレバーももちろん、うまい。
残った脂たっぷりのつゆと皮、たまごも、飯にかけて掻っ込む。
これもまたうまい。

鬼平軍鶏鍋、やはりこういう暑い頃、
絶好、で、ある。

 

 

 

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