断腸亭料理日記2019
10月4日(金)夜
金曜日。
やっと涼しくなってきたか。
いや、今日も30℃近くはあった。
だが、まあ、さすがに真夏ではない。
エアコンを入れずにすごせる。
涼しくなって、頭に浮かんだのは、すき焼き。
仲見世脇、浅草寺そばの[今半別館]。
[今半]は浅草には新仲の「本店」も含めて系統違いで
いくつかある。
中でも[別館]はよい。
なにがよいといって、数寄屋造りの建物。
これは戦後すぐの建築で有形文化財。
これだけ手の込んだものは、浅草はもとより東京でも
そう多くはないのではなかろうか。
東京というところは、ご存知のように京都などと違って
震災と戦災を受けているので古い建物はほぼ残っていない。
浅草寺も創建当時、江戸初期のものは二天門ともう一つだけ。
ここのものは戦後にもう一度建て直しているものだが、
こういうものも東京ではあまりないのではなかろうか。
戦前まで、今の新仲(しんなか)にある本店はもっと豪勢で
大きな建物であったようである。
昼頃予約をして、18時に出かける。
雷門までタクシー。
仲見世の裏を通って、浅草寺方向へ。
新仲、伝法院通りも突っ切って右手。
[今半別館]到着。
玄関は左手のテーブル席と右側の、座敷用と二つある。
右側へ。
お姐さんに名前を言って上がる。
座敷は皆、個室。
それぞれ部屋は趣向が違っているのだが、
部屋を指定しての予約はできない。
過去二回14年
と16年
は偶然、同じ部屋で、おそらくここでも最も手の込んだ、お寺のような
格天井(ごうてんじょう)のある造りであった。
今日は「松」と言っていた。
階段を上がり、右側一番手前の部屋。
以前のところではない。
天井は格天井ではないが、なかなかなもの。
人形はなぜか桃太郎。
部屋の名前通り、松の趣向。
欄間も彩色がされている。
乙である。瓢箪。
瓢箪が大きいのが、よい。
座敷であるが、席はテーブルである。
ビールをもらって、せっかくなので、
近江牛の10,000円のコース「こととい」にする。
最初はこれ。
蒸しもの、栗のおこわ。
おこわをお椀に入れて蒸してあるのは、ちょっと珍しいのでは
なかろうか。
秋、で、ある。
栗は今年初めて。
前菜。
左から、いくらおろし、海老の時雨煮、茄子の利休寄せ、
いかの雲丹焼き、梨のきんとん。
時雨煮は佃煮のようなもの。
利休寄せというのは、胡麻豆腐のようなもの。
これに茄子が入っている。
梨のきんとんというのがおもしろい。
きんとんというので梨も煮ているのかと思ったら
みずみずしい生である。
そこにさつまいもの餡が合わされている。
普段、私は果物を食べる習慣があまりなく、栗にしても
梨にしても、こうして季節を感じられるのは、ちゃんとした
和食ならではのも。たまにはこういうものを食べねば。
さて、お待ちかね。
肉がきた。
美しい。見事な霜降り。
やはりこれ、芸術品であろう。
和牛という種、生産する人々の技とシステム、解体、精肉、流通、
そして提供されるすき焼き料理店、これらすべてを含めて、
我が国食文化固有のものであり、また、代表するものといって
よろしかろう。
特に、和牛という種、そして見事な霜降りを生み出す肥育技術。
赤身がうまく安い米国のアンガスビーフも私は大好きだが、
別の食べ物である。自由化されても別のものとして私は食べる。
霜降り和牛は、我が国が世界に誇るべきものである。
和牛は、wagyuとして海外に流出してしまっている。
海外生産のものは高いばかりで、むろんのこと国産のものとは
くらべものにならない。
つづく
03-3841-2690
台東区浅草2-2-5
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