断腸亭料理日記2019
11月2日(土)第二食
さて。
土曜日。
今日は、内儀(かみ)さんの希望で、気持ち時期が
早いが神田須田町の[いせ源]。
いわずと知れた、あんこう鍋の名店。
1シーズンに一回は必ずくる。
(書いていないこともあるが。)
創業は天保元年(1830年)。
これが、東京都指定歴史的建造物。
昭和5年(1930年)、関東大震災後の建築。
いい顔をしてるではないか。
先日の浅草の[今半別館]もそうだが、この建物だけでも
くる価値が私はあると思う。私の親父の生まれた頃、祖父さんが
呑み歩いていた頃の東京の空気がここに漂っている。
なんだか、うれしくなる。
4時半、店前で待ち合わせ。
私は、自転車できていた。
脇の路地に自転車を停めて、入る。
さすがに、11月に入ったばかりのこの時刻、さすがに
並ぶようなことはない。
下足のおじさんから番号の書かれた木札をもらい、上がる。
磨き込まれた木の床。
同じく、飴色になった梯子段を上がって、二階へ。
入れ込みの座敷。
ガス焜炉ののった使い込まれた朱塗りのお膳と
白い座布団が並ぶ。先客は広い座敷に一組。
奥の窓際の角に座る。
木札はお膳の上に置く。
これは下足の札でもあるが、勘定の札にもなっているので
お姐さんにわかるように。
座敷を見渡す。
数寄屋造りといった凝ったものではない。
もともと、入れ込みで、庶民の店。
戦前の東京の雰囲気といってよいのであろう。
やはり、いいものである。
ビールと鍋を頼む。
他のものもあるがここはこれで十分であろう。
お通し。
茄子、蕪の煮物である。
割烹風といってよいのか、出汁がしっかり染みたもの。
鍋がきた。
あんこうの身、皮、あん肝、三つ葉、独活、椎茸、銀杏、
白滝、豆腐など。
独活は、山独活ではなく、東京の伝統野菜、多摩の白独活。
つゆは、しょうゆの甘辛。
あんこう鍋は本場茨城などは味噌が一般的だが、
ここのものは、東京の他の鍋同様、この味である。
あんこうの身は下拵えができているので、
温まり、多少味が染みればよい。
よいかな。
あんこうはなんといっても、このぷりぷりのゼラチン質が
うまい、のである。
あん肝も、ここのものは、なにか上等である。
くさみ、雑味が、皆無。濃厚。
そして、またまた、であるが、ここの白滝。
ここも細い、のである。
内儀さんも好きなので、白滝だけ、追加でもらう。
味の染みた、細い白滝は堪えられぬうまさ。
やはり白滝は、細いものに限る。
食べ終わり、おじやを頼む。
雑炊ではなく、おじや、で、ある。
これも一人前でよい。
お新香がきて、
お姐さんが作ってくれる。
玉子が入る。
学習をしているので、手は出さない。
今はどうか知らぬが、怒られたもの。
心配になるほど、ちょいと焦げるまで煮詰める。
これもまた、うまい。
うまかった。
満腹。
立つ。勘定は下の帳場。
あまり気が付かないと思うが、玄関の天井。
格天井(ごうてんじょう)。菊の図柄に政宗。
菊政宗である。藪そばもそうだが、東京の老舗は菊正が強い。
樽?、のようではあるが、酒樽であれば、こんなに表面が
きれいではないのではなかろうか。菊政宗がこの店のために
作ったのではなかろうか。
ご馳走様でした。
神田須田町、あんこう鍋[いせ源]。よいものである。
千代田区神田須田町1丁目11番地1
03-3251-1229
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