断腸亭料理日記2019
12月9日(月)第一食
さて。
越前おろしそばとソースかつ丼、で、ある。
サラリーマン時代、福井県にはよく出張で行き、
昼飯に好きでよく食べていた。
東京はうどんではなく、そば食文化。
うどんではなく、そばを主に食べる、そば食文化の地域は
ご存知のように、他にも日本中にある。
京都などもそうであろう。
去年も京都の庭を見に行った時に、食べている。
わんこそばの岩手、出雲、信州などなど昔から有名なところは多い。
山形もそうか。山形の肉そば
というのは、食べたことがあるが、他には経験はない
かもしれぬ。
福井県、越前というのもそば食文化である。
あまり知られていないのかもしれぬ。
福井はそばなのだが、隣の金沢はうどん。
滋賀はどっちであろうか、うどんではなかろうか。
隣同士なのだが、違うのはおもしろい。
そば食文化の地域は山がちで歴史的に小麦があまり採れず
そば食が根付いたところが多いのであろう。
考えてみると、江戸・東京はこの例外かもしれぬ。
ご存知の通り、周辺の多摩地域、埼玉は、腰の強い武蔵野うどん。
うどんは江戸市中でも作れたしあったはず。
江戸のそばはお寺から始まったという。屋号によくある○○庵は
その名残といわれている。
お寺のそばは、精進料理との関係であろう。
拙亭近所の浅草界隈も寺町だが江戸はお寺の数も多かった。
そういうことではなかろうか。ちょっと当てずっぽうであるが。
閑話休題。越前そばであった。
[ふくい軒]というところ。
住所は日本橋本石町だが、イメージ的には神田。
場所は言葉で説明しずらい。神田駅の南口から真っ直ぐ日本橋方向へ。
室町[砂場]の一本JR寄り。この通り、江戸通りを越えると、
三越裏、日銀横になるので日銀通りというようである。
[ふくい軒]。名前の通り福井県の名物を揃えている、夜は居酒屋。
私は、昼の越前おろしそばとソースかつ丼のセットを
食べにきている。
元浅草からは、書いている通り、毎度自転車。30分はかからない。
やっぱり、開店時刻の11時を目指してきた。
越前おろしそばとミニソースかつ丼のセット、1100円也。
ちょいと高い。むろん福井で食べればもっと安かった。
きた。
例によって私は、ソースかつ丼は後にまわし
そばから片付ける。
つゆが別に蕎麦猪口に入っている。
これは、東京に合わせているのか。
福井では、ぶっかけにする方が多いのではなかろうか。
そしてこのつゆ、しょうゆや出汁(だし)も入っている
のかもしれぬが、基本は大根のしぼり汁。
このまま、ねぎと鰹削り節とともにそばに
ぶっかけ、かき混ぜてしまう。
これで手繰り込む。
そばが黒っぽい。
歯ごたえしっかり、香り豊か。
つゆは大根のしぼり汁が主なので、薄味。
東京の濃いそばつゆに慣れているので、物足りなくも
感じるのだが、越前そばとはこういうもの。
うまい、うまい。
箸が止まらぬ。
食べ終わり、ソースかつ丼にかかる。
薄く切ったヒレ肉であろうか。
福井のソースかつ丼のカツは、薄いものを揚げている。
ソースは甘く、粘度が低め。
全国各地に地ソースというものがあるが、
これも福井の地のものであろう。
カツが甘いソースをまとい、
さらに飯に染み込み、これがまた、うまい。
ソースかつ丼というのは、東京にはないが、
全国にぽつぽつとある。
秩父、甲府なんというのがすぐに思い浮かぶ。
他の地域のものを食べた記憶はないのだが、
不思議な存在である。
玉子とじのかつ丼は、東京のそばやが発祥という説が
有力なのであろう。明治終わりに生まれ大正期には一般化した。
この頃に、玉子とじではない様々なかつ丼が全国で
生まれたと考えるのが自然であろう。
人形町[小春軒]には明治生まれの別のかつ丼が
残っている。
玉子とじのかつ丼よりも、考えてみれば、
洋食の豚のカツレツをそのままどんぶり飯にのせ
ソースをかけた方が、簡単である。すぐに考え付く。
ソースの味は、飯に直にかけて合うように甘く
変えられていった。
東京でもおそらく、ソースかつ丼はあった可能性は
高かろう。だが、そばやの玉子とじのかつ丼に
淘汰され、なくなった。
それが飛び地のように全国に点在して残っている。
そういうことなのではなかろうか。
ともあれ。時に食べたくなる。
越前おろしそばとソースかつ丼、私にとっては
黄金の組み合わせメニューである。
ふくい軒
050-5592-5885
中央区日本橋本石町4-4-16
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