断腸亭料理日記2018

くさや

10月23日(火)夜

さて、火曜日。

帰り道、例によって、なにを食べようか
考える。

が、なかなかよいものが思い浮かばない。

酒の肴のようなものにしようか。

つまりまあ、腹にたまるもので食欲がそそられるものが
思い浮かばない、ということである。

と、思い浮かんだのが、くさや。

もちろん、飯のおかずにしてもよいのだが、
やはり、いかにも酒の肴といってよろしかろう。

くさや、というのは食べたことがある方は
どのくらいおられるのであろうか。

案外少ないのではなかろうか。
そもそも、存在を知らないという方も
あるかもしれぬ。

北海道生まれのうちの内儀(かみ)さんなども、
知らなかった口で、あの強烈な匂いを今でも
いやがっている。

私はというと、くさやもそうだが、鰹の塩辛、
なんというものが、小学生の頃から好きであった。
一緒に住んでいた、酒呑みだった、東京の大井町生まれの
爺さんの影響かもしれぬ。

地域差ということはあるかもしれぬ。

落語などにもくさやは出てくるので、
江戸の頃から江戸・東京では食べられていたもの
ではなかろうか。

新島が有名だが、伊豆七島が今でも産地ではある。

むろあじなどの開きを、魚の内臓などが入り
塩が入った発酵した液体につけて、干したもの。

ウィキペディアによれば、
やはり新島発祥で、江戸期から作られており、
おそらく江戸などにも流通していたものであろう。

干物を作るのに偶然できたという。

我国に限らず、東南アジアを含め広く魚を発酵させた
食文化がある。

魚醤では能登のいしる、秋田のしょっつるが有名で日本海沿岸が多い
ように見えるが太平洋岸にもあったのか。
私自身は情報を持っていないが、静岡などでは
鰹の塩辛が今もよく作られており、あっても不思議は
ないだろう。

ただ、前記のウィキを信用すれば、くさやは、
偶然の産物というのでどこかの地域から伝播したもの
ではなかったのかもしれない。
それで伊豆七島以外には見られないのかも
しれない。

吉池の地下で「あおむろあじ」というものの
くさやを買う。
むろあじというのは、刺身でも焼いても、あまり
うまくないので、くさやにされることが多い
と聞いたことがある。

ついでに、愛媛のじゃこ天を購入。
じゃこ天というのは、青魚などのすり身を揚げたもの。
吉池にはくさやも常備してあるが、じゃこ天もある。
じゃこ天も好物である。

どちらにしても酒の肴ではあるが。

帰宅。

くさやとじゃこ天。

くさやの袋をはさみで切って開ける。
もうその途端にあの強烈な匂いが立ち込める。
内儀(かみ)さんがすかさず反応する。
うまいものなのだから、少し我慢をしておくれ。

袋から出すとこんな感じ。

ガスのグリルで焼く。

別段、コツのようなものはないが、
通常の干物よりも多少乾燥しているので、
同じようなつもりで焼くとカチカチになってしまうので
軽く、ぐらいの心持ちでよいだろう。

一応両面を焼く。
焼いたら、そのまま皿にのせてもよいが、
身をほぐす。
少しは上品な感じにはなる?。
まあ、それほどのものでもないか。

じゃこ天は切ってオーブントースターで
軽く焼く。

ビールを開けて、つまむ。
じゃこ天はしょうゆで。

くさやの匂いの好きな人はそうそういまいが、
やはり食べればうまいのは、わかるであろう。
内儀さんだって、くさい、といいながらも、
ちゃんと食べている。

だがまあ、においが先にきて、口に入れる気に
ならない、という人は多かろう。

いずれにしても、普通の鯵の干物などよりも
数段うまい。
私などはこのにおいが、クセになり、条件反射的に、
後を引いて、うまい、うまいと、どんどん食べてしまう。

例があまりよくないかもしれぬが、
においフェチの人がいる。
なんとなく、あれに近いかもしれぬ。

書いたように、子供の頃に初めて食べた時から
うまいと思っていた。
なぜであろうか。
くさいものに、免疫がなかったからなのか。

琵琶湖の鮒ずしも、北陸のヘシコも私は、食べられる。
いや、むしろ、好物。
青かびのブルーチーズや、ゴルゴンゾーラも
最初からうまいものとして、普通に食べられ

た。

くさいものは、うまい、のである。


 
 
 

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