断腸亭料理日記2018

雷門・松喜の肉ですき焼き その3

雷門の松阪牛肉店[松喜]から、浅草という、江戸からの
盛り場を振り返ってみた。

江戸、明治、大正、昭和、現代とずっとにぎわいを
保ち続けてきたわけである。
それで、その時代時代の流行の食い物やも残り、愛され、
老舗となったということになろう。むろんこの間に
たくさんの店が淘汰されたのであろうが。
うなぎなどは江戸後期から。その後、幕末から明治初頭が鮨や。
明治に天ぷらや、牛鍋からすき焼きや、洋食や、大正に入り、
とんかつや、、、。こんな順番か。
それぞれ、他の街よりも、やはり濃い。
ただ、戦後生まれた業態となると、存在感のあるものは
やはり浅草にはほぼない、といえるのではなかろうか。
(浅草には焼肉やなども多いのだが、あれは戦後なのか、
戦前なのか。)

さて[松喜]。

[松喜]は主にすき焼き用の肉を売っている。
レストランをやっていたこともあるが、
今は精肉販売のみ。

場所は雷門通りの南側。
雷門前から見て、右側の一つ目の角。
創業は昭和22年と、戦後すぐ。

肉の包み。

白滝。

[松喜]で売っているものだが[大原本店]というところのもの。

なん度か書いているが、台東二丁目と拙亭のある元浅草にも
ほど近いところにある。江戸の生麩、つとぶ、というものや
生湯葉、ちくわぶ、こんにゃくなどを製造販売している。

なにしろ、この白滝がよい。
なにがといって、細いこと。
絶対に白滝は細い方がうまいと思うのである。

内儀(かみ)さんは私以上にこれが好きで、
必ず買ってくる。

肉の包みを開けると、

なつかしの紙の経木。
もうここでしか見ないかもしれない。
子供の頃の肉やは皆これであった。

開けると。

なかなかよい色。

割り下(これは使いかけだが)。

これは[松喜]オリジナルのもの。
別段、これでなくともよいが、便利なので使っている。


さて、お忘れであったと思うが、助六寿しといっしょに
茹でた、新たけのこ。

むくと。

こんな感じ。

切って

皿に。

なかなかよい色。

鰹節削り節をとしょうゆをかけて。

まだ小さい、初物のたけのこ。

流石に、あくなどもほとんどなく、柔らかくサクサクとした
ほどよい歯ごたえ。まさに堪えられない。
いくらでも食べられる。

この大きさなので、地上に顔を出す前に掘っているもの
なのであろう。
貴重である。

すき焼き。

ねぎ、焼豆腐、椎茸と、大原本店の細い白滝。

玉子をくぐらせ、食べる。

これがまずかろうはずがない。
日本人に生まれてよかったと思う食い物の一つであろう。

最近[松喜]にも近い浅草の老舗[ちんや]では「適サシ宣言」
というのをしている。

これは霜降りやめます、ではないよう。

サシの量というのは、12のランクで表されるらしいのだが
最もうまいのは適度なサシの7くらい、という。

[ちんや]などでは接待用などで、最高級の10とか11のものも
用意する必要があったのだが、これをやめた、という。
(もともと[ちんや]では接待のお客は少なかったとのこと。)

いつもそうだが今日の肉も[松喜]で売られている
最高のものではないので、意外に、このへんが
適サシかもしれない。

そして、白滝。

白滝も、やっぱり、うまい。

細いからか、しっかりして腰があるように
感じられるのだが、気のせいであろうか。

細いので煮ていると水分が抜けるのが早く、
しっかりしてくる、というのはあるのかもしれない。

ただやはり、他にこの程度の細い白滝というのを私は
見たことがない。なにか作り方に特別な工夫が
あるのかもしれない。

ともあれ。

[松喜]の肉ですき焼き、うまかった、うまかった。

ご馳走様。




松喜
03-3841-2983
台東区雷門2-17-8


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