断腸亭料理日記2018
この界隈のことを書いている。
本所が江戸市中になったのは江戸城のある隅田川の西側と
若干の遅れがあるが、それでも江戸期200年程度は
既に街であった。昨日書いたように、著名人も明治までは
多く住んでいたわけだし、両国橋を渡った西両国、新大橋を渡った森下、
あるいは永代橋を渡った佐賀町など
名だたる大店も数多くあった。かの紀伊国屋文左衛門の
紀伊国屋の店はこの深川佐賀町である。
しかし、今の本所深川で繁華街といえば、錦糸町くらいで
それ以外は押しなべて住宅地の街並みである。
なぜであろうか。
一つは、関東大震災と、その後の第二次大戦の
東京大空襲で徹底的に焼かれたこと。
悲しい歴史である。
今、戦後70年がたって、むろんすっかり復興しており、
焼け跡の痕跡すら見つけるのはむずかしい。
それでも、古くからあるお寺などをめぐってみると、
例えば江戸期からあった石碑などが残っていても
ボロボロ。これは、隅田川の西岸の旧跡と比べると
大きな差があり、空襲の激しさがおぼろげながらわかる。
また、もちろん東京大空襲で奪われた10万人の命の多くが
この隅田川の東岸であった。
そして、戦後、東京は西に向かって発展した。
明治大正の本所深川は、工場地帯として
発展していた。住人も明治以降は多くが工場で働く
労働者に次第に代わっていったわけである。
花王、ライオン、専売公社(日本たばこ)、アサヒビール、
鐘紡、セイコー、IHI(石川島播磨重工業)、、、。
本所深川にルーツがあり古くから工場のあった大企業は
戦後ある時期からは、工場機能は郊外や地方に移し、
オフィスや研究所、倉庫機能などに代わっていく。
距離的には都心に近いがエアポケットのように
ぽっかりと空いていた。
こういった背景が今のこのあたりの街並みを
作っていったのであろう。
さて。
[クインベル]。
5時半、到着。
テーブル7〜8であろうか。
小さな店。
調理はシェフのご主人と助手の方、二人体制。
外は女性二人。
日曜日も予約をしなければとてもだめである。
ただ、やっぱりサンダル履きの地元の人々の多いのも
この店の特徴。
店もかしこまってはいないが、お客もかしこまっては
いない。
これがよいところ。
コースもあるが、バラバラと頼む。
マグロとアボカドのタルタル、つぶ貝のガーリックバター焼き。
そして、ドライカレーのオムライス、そして、わたりがにのトマトパスタ。
この二皿は黄金であろう。
この店を代表するメニュー。
そうであった、最近はビーフカツサンドが有名になっているよう。
まあ、ここまでは食べられぬ。
アボカドとマグロ。
内儀(かみ)さんの希望。
いつもここにある、定番メニューである。
レモンであろうか、さわやかで、うまい。
そして、つぶ貝。
ガーリックバター焼きといえば、昨年から、妙に縁がある。
浅草の[大宮]で食べた、牡蠣から始まって、
自分でも作るようになった。
ガーリックバター焼きといえば、私にはエスカルゴであったが、
牡蠣でもつぶ貝でもうまい。
ドライカレーのオムライス。
以前はもう少し大きかったような、、、。
ここも上品になったか。
ドライカレーのオムライスにデミグラスソースを
合わせる、というのは、まったく秀逸。
どうしてこういう組み合わせを考え付いたのか。
もちろん、合っているし、どこにもない味。
シェフの非凡さを物語っている。
ワタリガニのパスタ。
これはまあ、今となっては珍しくなく、
むしろ定番かもしれぬ。
私も自作したことはある。
ワタリガニからうまみが出たトマトソースは
まさに堪えられぬうまさ。
また、こうして、ちょっと細めのパスタで
ボールでドカッと出してくるスタイルがよい。
洋食というのは、明治以来、フレンチから出て
日本人の口に合うようにアレンジされてきたもの。
カツレツ(とんかつ)、コロッケ、エビフライ、サンドイッチ
ステーキ、グラタン、オムライス、カレー。
このあたりが戦前までであろうか。
戦後、ハンバーグ、スパゲティーナポリタン、
リゾットなんというのが洋食に加わった。
時代に合わせて、様々なメニューが日本人流に
アレンジされてさらに独自の進化もし、定番化していったのが
「洋食」といえるのであろう。
フレンチ出身のシェフで「洋食」を意識されている方は
そう多くはないが、いる。
浅草の[大宮]、そしてここ[クインベル]。
たまたまどちらも下町で私が知っているところだが
他にもそういうシェフはあるのであろう。
フレンチの土俵ではなく、洋食という土俵で
新しいものを生み出している。
これが明治以来やられてきた洋食の精神を
受け継がれているシェフ達。
そういうことがいえるのではなかろうか。
なんだか、私はとても好感も持てるのだが。
今日もおいしかったです。
ご馳走様でした。
墨田区石原1丁目25−5
03-3623-1222
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