断腸亭料理日記2018
昨日は、浅草で扇子三本を買って、入谷の朝顔市に
まわったところまで。
そこから、最近読み終わった「子規の音」のことを
書いている。
森まゆみ著(新潮社2017)。
森まゆみ氏は、かの地域雑誌「谷中・根津・千駄木」の編集者、作家。
1954年、文京区石動坂生まれで私よりは9歳年長。
昨日「谷根千」は私はちょっと距離を感じていたと書いた。
ちなみに谷根千は、谷中、根津、千駄木なので子規の住んでいた
根岸の根ではない。
まあ、私の住む、元浅草とはさほど離れてはおらず、
根津、千駄木は文京区だが、谷中は台東区。
だが、ちょっと谷根千は微妙な場所。
今、谷根千といえば、下町情緒を味わうそぞろ歩き、
なんという冠が付く。
むろん、本来は山手ではあるが、下町情緒は否定はしない。
今も、坂のある寺町の風情が残り、緑も多い。
歴史的には、戦災を免れて昭和どころか戦前の雰囲気が
残っている。商店街が魅力的。
長屋が残っていたりするが、東大や芸大にも近く、そんな雰囲気が
外国人、アーティストや文化人(?)にも好まれている、的な。
趣味そばが多い。
やっぱりここが微妙なのである。
上野の山の向こう側で微妙に不便。
それで落ち着いた雰囲気が残る。
まあ、皮肉な言い方をすれば田舎、という
言い換えもできるのであるが。
森まゆみ先生の思いとは別に、小洒落た隠れ家風(?)
「趣味そば」がたくさんできてしまうと、私などは、ああ、
やっぱり、と思ってしまうのである。
そんなこんなで、やっぱり今でも谷根千は“微妙”なのである。
(まあ、端的にいえば「趣味そば」が嫌いなのである。
あの似非(えせ)感、偽物感というのであろうか。
もちろん中には、本物もあるが。)
そんなこともあって、森まゆみ氏の著作というのは
正直、多少避けてきたわけではあったのである。
ただ「谷根千」をやめられてからのものであろうか、
最近の氏の著作のリストを見て、少なからず驚いた。
読んでみたいものが今回の「子規の音」と
「円朝ざんまい」。円朝はもちろん、幕末から明治の
大落語家、三遊亭圓朝。
(圓朝師は谷中、根津育ちという縁のよう。森まゆみ氏は
落語などには興味のない方かと思っていたが。)
ともあれ。
今回、正岡子規への興味と森まゆみ氏への興味と
二つの意図で読んでみたのである。
「子規の音」は正岡子規の一生を辿った、
伝記のような作りになっている。
お得意というべきか、根岸はもとより、子規の
歩いた東北やら、諸方を取材をして歩かれてもいるし、
全集はもちろん、子規について書かれた周りの人々の
記録も丹念に読み込まれている。
また、氏の興味が明治の東京の街(根岸、谷根千を中心に上野、
下谷、向島、神田、、付近〜浅草がほぼ触れられていないのは、
意図的か。)あるいは食、というのが私の興味と一致しており、
よく調べられている。
子規の生きた明治の20年、30年台のこのあたりの風景、
街の雰囲気、人の姿が多少想像できたようにも思われた。
(市井の雰囲気というのはこうして当時の人の日記のようなものから
掘り起こすしかないのであろう。私にとってはとても示唆的なアプローチと感じた。)
さて、子規のこと。
NHKドラマ「坂の上の雲」の影響でどうしても
香川照之の演じたキャラクターを頭に描きながら読んでしまった。
森まゆみ氏も明るく、寂しがりやで多少天然なキャラクターでは
なかったか、という趣旨のことを書かれている。
それも、多くの友人、弟子に恵まれた理由の一つであった、
のかもしれない。
ただやはり、8年になるのか、結核から脊椎カリエスでの
闘病生活は、特に死直前の1〜2年は壮絶である。
あまりに生々しい描写は多くはないがそれでもよくこれを
書こうと思ったと、思わせる。
子規の妹、ドラマでは菅野美穂が演じた、律の看護する姿は
想像するだにおそろしいほど。
(どうも私は、人の血をみるのが、からきし苦手である。)
表題の「子規の音」の音はネと読ませるのかと思ったら
そのままオトでよいよう。
俳句はもとより、短歌、随筆なども含めて、作品も
年月を追って触れられている。
名作、秀作、習作、駄作、実際にはべら棒な数を子規は
作っているわけである。
おそらく森まゆみ氏は、追いかけて全部目を通されている
のであろう。
その結果、子規の作品には、音が聞こえると、考えられ、
その音に焦点をあてて、採られている。
今、根岸子規庵の最寄り駅は鶯谷である。
おそらく歩いて10分もかからないのではなかろうか。
当時子規存命の明治30年台は日本鉄道という私鉄で
今のJR東北線になる線であるが、鶯谷駅はなく、
線路に近い子規の家からは、むろん蒸気機関車の音
であろうが、夜、病床の子規の耳にゴウゴウと
聞こえてきたようである。
ちょっとだけ孫引きをお許しを。
「(前略)
南の家で赤子が泣く。
南へ一町ばかり隔てたる日本鉄道の汽車は衆声をあっして囂々と
通り過ぎた。
上野の森に今まで鳴いて居た梟ははたと啼き絶えた。
(後略)」(「ホトトギス」より「夏の夜の音」明治32年)
根岸が花柳界になるのは子規の亡き後、大正あたりから
なのであろうか。個人的にはこのあたりの根岸も知りたい
ところ。これは私の宿題である。
さて、さて、食いものも書かねば。
入谷の朝顔市から自転車で元浅草まで帰宅、なのだが
帰り道、ラーメンや[稲荷屋]に寄った。
先日も書いた[大和]の浅草通りをはさんだ向かい側。
なんのなんの、こちらもうまいのである。
やっぱり、同じわんたん麺。
ここはわんたんもさることながら、スープ。
店主は見た目若そうだが、フレンチの修業をしたとかで
このスープは、濃厚なコンソメスープのよう。
しょうゆが入っているのかわからぬが、実に奥深い味。
浅草通りの南側なので、私の住む元浅草と
同町ということになる。
この高レベルラーメン店の差し向かい、ありがたい。
稲荷屋
台東区元浅草2-10-13 島田ビル 1F
03-3841-9990
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