断腸亭料理日記2018
引き続き、駒形[どぜう]。
昨日は、丸鍋がきて、ねぎを山盛りのせて、
どぜうから食べ始めたところまで。
しかし、座敷はエアコンが効いているとはいえ、
目の前に炭火があって、暑い。
ふと、視線を上げて、正面奥を見る。
中央、壁の上の方には立派な神棚。
その右側、書初めのように長い大きな紙に
凍結酒。
ほう、そんなものがあるのか。
おもしろい。
その右、鯉のあらい。
そうそう!。
鯉のあらい、で、あった。
これは、絶対もらわねば。
鯉のあらいというのは、鯉の刺身であるが、
身を〆るために冷水で洗う。うまいもんである。
特に、夏のもの。
氷の上にのせて出てくる。
私の祖父さんが好物の一つにしていたし、
池波レシピでもある。むろん私も好物。
鬼平で、やはり確か、真夏、相模の彦十が向島で
食べていた。その昔、向島の料亭では生け簀に鯉を飼って
あらいを名物にしていた。
ここには必ずある。
そして、南千住のうなぎの[尾花]にもあった。
遠くにいるお姐さんに
すみませ〜〜ん、と、手を挙げて、
鯉のあらいぃ〜〜〜、と、頼む。
取ってはどぜうを食べ、ねぎをのせる。
煮えたらまた、ねぎを喰う。
暑い。
扇子で、パタパタ。
おしぼりで、顔の汗をぬぐう。
ビール、ビール。
ビールを流し込む。
ふ〜。
お。
待ってました!。
鯉のあらいの、到着。
味噌はちょっとゆるめの白味噌の酢味噌。
冷たい鯉のあらいがまた、ばかうま。
丸鍋、一枚目、平らげる。
またまた、すみませ〜〜ん、と、手を挙げて、
丸鍋、お替り!。
ここは、鍋のお替りは、もう一枚持ってきて、
今掛かっているあいた鍋に、直接移してくれる。
またまた、ねぎを山盛り。
煮ては喰い。
食ってはねぎをのせる。
煮詰まってきたら、お隣とシェアの割り下を足す。
ん!。
ビールが終わった。
お酒、もらおう。
ここは、ふりそでというオリジナルの銘が
ついている。
今度は近くにきたお姐さんに、
ふりそでを冷(ひや)で一合!。
さすがにここは、若いお姐さんでも、
冷酒(レイシュ)ですか?、とは聞き返さない。
冷といったら、冷である。
皆さん「常温」なんという野暮で、味わいのない言葉を
使うのはやめようではないか。昔から冷・ヒヤである。
お銚子とお猪口。
このお猪口、よいではないか。
将棋の駒の絵に、どぜうと描いてある。
もちろん、駒形どぜうのこと。
ふりそでは、辛口でさらっとした酒。
冷でもうまい。
呑んでいると、隣の母娘の女性二人。
勘定をして、そろそろ帰るよう。
娘さんの方がトイレに立った間に、お母さんの方が
私に話しかけてきた。
近くですか?。
はい、近所です。
私も近所なんですよ。意外に近所だとこないですよね。
そうですね。私もちょっと久しぶり。
娘さんも戻ってきて、会釈をして立っていく。
私も会釈。
お互いに、そう思ったのであろう。
この人、近所だ、と。
親子らしい女性二人で、どぜうの丸鍋。物慣れた感じ。
普通、こんな真夏に女性二人で、どぜうやには、こない。
まあ、私もそう見えたのであろう。
酒も呑み終わり、私もお姐さんを呼んで
勘定。
下足札が戻ってきて、
裏が代済にかわっている。
ご馳走様でした。
近所のどこですか?、などと聞くのも野暮。
これでいいのである。
なぁ〜〜〜んとなく、この空間と価値観を
共有できたように、感じられてうれしかった。
江戸への思い断ちがたく、であろうか。
といったところで、断腸亭は夏休みに入ります。
Have a nice summer vacation!
台東区駒形1-7-12
TEL.03-3842-4001
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