断腸亭料理日記2017
引き続き、歌舞伎座、秀山祭。
昨日は一番目(?)の「ひらかな盛衰記 逆櫓」。
4時半開演で、若干の休みを入れて、1時間半とそこそこ長い。
幕間、30分の休憩。
買ってきた、木挽町[辨松]の弁当である。
今の駅弁などの大きさからすると随分コンパクトである。
おそらく昔のサイズのままなのであろう。
包装紙を取ると、
割り箸の長さよりも短い。
中身は、
こんな感じ。
赤飯のご飯とおかずの二段。
おかずの方は、皆ここの定番。
ちょっと見ずらいが、左上から奈良漬、切りいか。
その下にかぶさって、かじき味噌焼き、うま煮。
うま煮は、里芋、たけのこ、つと麸、ごぼう、椎茸、
きぬさや、揚げボール。
あとは豆きんとんに、蒲鉾、玉子焼き。
葉唐辛子の佃煮。
つと麸というのをご存知のであろうか。
なん度か書いているのでご記憶の方もあるかもしれぬ。
ちょうど真ん中あたりの黒い椎茸の上のもの。
ちょっと、ギザギザのひだのような。
これは生麩、である。
生麩というと京都が思い浮かぶが、これは江戸のもの。
[辧松]のうま煮には必ず入るが、
私はここでしか見たことがない。
なん度か買いに行ったことがある、ご近所台東の[大原本店]
というところで作っている。
([辨松]のものがここのものかは不明。)
生麩などというと京料理で薄味、あるいは味はなし、だが
とんでもはっぷん、つと麸に限らずうま煮すべてだが、
甘辛の江戸前の味付け。それもかなり濃い。
もう一つだけ、書いておきたいのが、
葉唐辛子の佃煮。
これも、東京の味ではなかろうか。
甘味はほとんどなくしょうゆだけで味付けされて
ピッとした風味が私などには、懐かしい味。
今回の木挽町[辨松]は折詰弁当の元祖、日本橋[弁松]の分かれ。
このあたりのこと、かなり詳しく書いている。
(ご興味あれば。)
さて、幕間の休みが終わって、二番目(?)の
「再桜遇清水(さいかいざくらみそめのきよみず)」。
最初に書いたように、清玄・桜姫もの、
と言われている作品群の一つ。
演目と配役に
『「遇曽我中村」より
松 貫四 作 中村吉右衛門 監修
戸部和久 補綴
再桜遇清水(さいかいざくらみそめのきよみず)』
とある。
まず「遇曽我中村(さいかいそがなかむら)」というのが
下敷きになっている作品。
この演目は『寛政5年(1793年)3月、江戸中村座で
曽我物の二番目』として初演されたものという。
清玄・桜姫もの自体は元禄の頃には既にあったよう。
往々にして歌舞伎や人形浄瑠璃のお話は実話が多いのだが
この清玄・桜姫ものは不詳とのことだが、もしやすると
実話だったのではなかろうか。
京都清水寺のお上人様というから高位の坊さん
だったのであろう。その人が身分のあるお姫様、
お公家さん系かもしれぬ、に恋をして、いわゆる
破戒、戒律を破って堕落する、という話し。
江戸の頃にはこの清玄・桜姫ものはいくつもの種類があって、
数多く演られたようであるが、明治以降は次第に
見られなくなったようである。
もう一度、先ほどの演目と配役の部分を見ていただきたい。
「松 貫四 作 中村吉右衛門 監修」の部分。
この作者の松貫四なる人物、
これは吉右衛門その人とのこと。
四国の金丸座の復活公演のために、途絶えていた
「遇曽我中村」という清玄・桜姫ものを書き直して
初演をしたものという。
古い古い、江戸の頃の風情を残した地方の芝居小屋
ということで、この作品を選んだという。
筋立てや演出はなるほど、江戸の頃の芝居を
彷彿とさせる。
三幕三場。
2時間40分とこれも長い。
例によって、筋を書くのはやめよう。
ただ、やっぱり十分にたのしめた。
前半部分はコメディータッチ。
いかにも、庶民が愉しめる。
そして、後半は、怪談で終わる、という。
ちょっと意外な展開にもみえるが、
バラエティーにとみ、エンターテインメント性は
高いと思われる。
おもしろかったのが清玄に仕えている
寺小姓の二人。
破戒をした清玄の夜の相手をしている
という件があるが、これがかなり色っぽい。
前髪の残ったいわゆる、若衆の形で、
オジサンが見ても、ちょっとゾクッとしてしまう。
意識した演出だとは思うのだが、今の歌舞伎芝居では
あまり観られないもので、それこそ古風、かもしれぬが
オジサンにはGood、であった。
豊国画「清玄怨霊」江戸 八代目市川団十
奴淀平 三代目嵐璃寛
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