断腸亭料理日記2017

江戸甘でなめこと豆腐の味噌汁

10月14日(土)夜

寒い一日であった。

今日は午後、例によって、自転車で上野の山に出かけた。

寒く、雨も時折ぱらついていたが
人出はそこそこ多い。

2、3日前は日中30℃近い日もあったのに
なんであろうか、この変化の大きさは。

まったく極端である。

すっかり冷えてしまった。
温かいもの、温かいもの!。

きのこの味噌汁などどうであろうか。

秋といえばきのこ。

そういえば、先日の日比谷のフレンチ[アピシウス]ではコース料理の他に、
アラカルトもあると書いたが、他のテーブルでは、ワゴンにのせて
なにやらきのこをお客に見せていた。
希望のきのこを料理する、というようなことであったのか。
ちょっと気になった。

いずれフランスのきのこだったのであろう。
ヨーロッパのきのこというと、あの薫り高いトリュフ。
あるいは、イタリアンでよく使うポルチーニ。
もちろん、日本のスーパーにもたくさん出回っている
マッシュルームもあるが、このくらいしか、知識はない。
他にどんなきのこがあるのか。
どうも見せていたのは見たことのないものであったが。

私もきのこ類というのはきらいではない。
子供の頃、長野県生まれの母親に東京近郊の山に連れて行かれて、
野生のきのこ狩りなんということもしたことはある。

人工栽培ではない、名前も私にはわからないが食べられる
天然のきのこというのにも、なかなかうまいものがある。

特に、なめこのようなぬるぬるのあるものを
味噌汁にすると、うまいし、温まる。

帰り道、吉池の地下へ寄ってみる。

ここはなかなか珍しい野菜を置いていることがある。
例えば、今なら生の芋がら、芋茎(ずいき)だったり、まこもだけだったり。

珍しいきのこを置いているかもしれぬと、思ったのである。

が、特段そういうものはなく、どこにでも置いている
人工栽培のものばかり。

しかたない。

なめこでよいか。

であれば、豆腐も入れよう。

なめこと豆腐を買って、帰宅。

さて。

味噌、で、ある。

「江戸甘」を使ってみたらと、考えた。

先日から、戦前まで東京では最も一般的であった
江戸東京の地場の味噌、江戸甘のことを書いている。


ちょうど、八丁味噌と西京味噌を半々に合わせたようなもの。

ぬたなどの酢味噌、あるいは茄子の田楽のような
なめ味噌といったらよいのか、そういうものには
よく合う。

ただ問題は味噌汁。

一度、もっとも東京らしい味噌汁の実と思って
蜆(しじみ)でやってみたのだが、これがイマイチ。

蜆の出汁というのか味も感じられず、
甘めも味噌汁の味も、イマイチ。

その後、浅草の老舗味噌や[万久]で聞いてみると、
「味噌汁は、甘すぎるでしょう〜」との返事。

戦前の東京ではこの「江戸甘」が主流であったのならば
味噌汁にも使っていたはずと思ったのに浅草の老舗味噌やさんが
この返事をするのにはいささか拍子抜けではあった。

だが、今日のなめこと豆腐であれば、甘めでも
合うのではないか、と思ったのである。

そこで、まずは出汁。

蜆では薄かったので、鰹削り節で濃厚に取ってみる。

ここになめこを入れて火を通し、賽の目に切った
豆腐も投入。

そして、味噌。
「江戸甘」だけでは「甘すぎる」というよりも
我々の通常つかっている信州味噌などに慣れた舌には
塩味が足らなかろうと、信州味噌を20%程度入れ、
「江戸甘」を入れる。そして、さらに塩味を補う意図で
塩も少々。

味見。

ふむふむ、甘いことは甘いが、これならばよさそう。

煮立つ直前まで温めて、終了。

ねぎを散らす。

これで、ビール。

なかなか、よい味になった。

バランスということなのかもしれぬ。

「江戸甘」というのは米麹の量が多い。
おそらく、同じ甘い西京味噌などもそうのなのであろう。
米麹の量が多いというのは、アミノ酸が多いということ。
つまり、旨みは多いはずなのだが、実際にはそうは感じない。
塩味の強い味噌に慣れているからであろう。

ある程度の濃度の塩味がないとダメなのかもしれぬ。

ある程度の塩味に達し、そこに濃い鰹の出汁、
そして、なめこのぬめりが加わり、かなり濃厚な味噌汁に
なっている。

これはこれは、温まる。

米麹が多いからか、ちょっと酒粕を入れたような
感じにも近い。

おそらく、脂の多い豚汁などにも合うかもしれぬ。
「江戸甘」の味噌汁、塩味を足して濃厚系、これが
解、かもしれぬ。

 

 


    

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