断腸亭料理日記2017

上野藪蕎麦

5月29日(月)夜

さて。

月曜日。

五反田のオフィスからの帰り道、
例によってなにを食べようか考える。

蕎麦で一杯。
鴨せいろがよいな。

帰り道ならば、上野の[薮]。

御徒町から歩くよりも上野まで行った方が
近かろう。

山手線を上野で降りて広小路口に出てくる。
中央通りを渡って、丸井の向かって右の、
通りに入る。
真っ直ぐ。

7時半前。
列というほどではないがウイークデーの夜も
最近は待っている人があることもあるが
今日はそんなこともない。

自動ドアを開けて入る。
今夜は比較的すいている。

窓側の二人掛けのテーブルへ。

鴨せいろは決まりだが、その前に、、。

あ!

そうである。

菊正のみぞれ酒。

ここには菊正宗をシャーベット状に凍らせたものがある。
この時季にはよいかもしれぬ。

それから、軽いもの、、、
板わさ。

蕎麦も頼んでしまおう。

この家は客の呑む速さに合わせて
蕎麦を出す、なんという芸当はできない。
基本、できた順、成り行きで出てくる。

もしずらしたいのなら自分てタイミングを
計って頼まねばならない。

鴨せいろは酒の肴になる。
従って同時でよい。

鴨せいろも。
ここは一人客が多い。
ほとんと男。
年配のサラリーマン。
私のテーブルの隣は、脛の出たズボンに
ちょっと色の入った丸眼鏡、毛糸の キャップ。
私と同年輩か、ちょい下か。
なんの仕事をしているのやら。
お新香で酒を呑んでいる。

蕎麦は食べ終わったのか。
わからぬが、蕎麦やは居酒屋ではない。
そもそも蕎麦やでお新香もそうであるし、長々呑むのは
あまり粋ではなかろう。

池波先生の『男の作法』ではないが
東京の蕎麦や、鮨やなど男がいく食い物やには
大人の男が守るべきスタイルやルールがあった。
まあ、粋、ということてある。

歌舞伎『雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべ いりやのあぜみち)』
通称『直侍(なおざむらい)』

そのそば屋の場。
菊五郎家、音羽屋代々のお家芸だが、直侍の菊五郎だけが蕎麦やで
粋に、粋に、これ以上ないくらい粋に振る舞い、他の登場人物は、
徹底的に野暮に見える演出になっている。
蕎麦やというのは東京の男にとって特別な場所であったわけである。
そしてそういう男の美学も東京には確かにあった、のである。

ともあれ。

女性のお一人様も今日は、二人。
30代か。
増えている。

菊正宗のみぞれ酒と板わさ。


黒塗りの升とみぞれ酒は片口に。
波の花も添えられている。

升に移して呑む、というのか、食べる。
多少とけないと口に入れづらい。

ほとんどを升に移してしまったのだが
これはちょいと失敗。

升の方が保温性が高く、なかなかとけない。
箸でつまむよう。
陶器の片口の方がとけやすかった。

鴨せいろも出来上がり。

蕎麦が伸びるので先に。

ここの鴨せいろは焼いた鴨肉だけて
よく入っているつくねはなし。

ただ、鴨の味はよく出でいてうまい。

私は天ぷら蕎麦の蕎麦抜き、すなわち天ぬきでよく呑むが
鴨も鴨ぬきという食い方もあってよい酒の肴になる。

鴨肉と蕎麦つゆの甘辛はこれ以上ない
というくらいの好相性、である。
香りが合っているのかも知れない。

シャーベットもだいふゆるくなってきた。

鴨のつゆは辛口の菊正が進むこと夥(おひただ)しい。

シャーベットも片付いた。

よし。

ご馳走様でした。

うまかった。

勘定をして、出る。




台東区上野6-9-16
03-3831-4728



 

断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5 |

2004 リスト6 |2004 リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10 |

2004 リスト11 | 2004 リスト12 |2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005 リスト15

2005 リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20 |

2005 リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006 6月

2006 7月 | 2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006 12月

2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月 |

2007 8月 | 2007 9月 | 2007 10月 | 2007 11月 | 2007 12月 | 2008 1月 | 2008 2月

2008 3月 | 2008 4月 | 2008 5月 | 2008 6月 | 2008 7月 | 2008 8月 | 2008 9月

2008 10月 | 2008 11月 | 2008 12月 | 2009 1月 | 2009 2月 | 2009 3月 | 2009 4月 |

2009 5月 | 2009 6月 | 2009 7月 | 2009 8月 | 2009 9月 | 2009 10月 | 2009 11月 | 2009 12月 |

2010 1月 | 2010 2月 | 2010 3月 | 2010 4月 | 2010 5月 | 2010 6月 | 2010 7月 |

2010 8月 | 2010 9月 | 2010 10月 | 2010 11月 | 2011 12月 | 2011 1月 | 2011 2月 |

2011 3月 | 2011 4月 | 2011 5月 | 2011 6月 | 2011 7月 | 2011 8月 | 2011 9月 |

2011 10月 | 2011 11月 | 2011 12月 | 2012 1月 | 2012 2月 | 2012 3月 | 2012 4月 |

2012 5月 | 2012 6月 | 2012 7月 | 2012 8月 | 2012 9月 | 2012 10月 | 2012 11月 |

2012 12月 | 2013 1月 | 2013 2月 | 2013 3月 | 2013 4月 | 2013 5月 | 2013 6月 |

2013 7月 | 2013 8月 | 2013 9月 | 2013 10月 | 2013 11月 | 2013 12月 | 2014 1月

2014 2月 | 2014 3月| 2014 4月| 2014 5月| 2014 6月| 2014 7月 | 2014 8月 | 2014 9月 |

2014 10月 | 2014 11月 | 2014 12月 | 2015 1月 |2015 2月 | 2015 3月 | 2015 4月 |

2015 5月 | 2015 6月 | 2015 7月 | 2015 8月 | 2015 9月 | 2015 10月 | 2015 11月 |

2015 12月 | 2016 1月 | 2016 2月 | 2016 3月 | 2016 4月 | 2016 5月 | 2016 6月 |

2016 7月 | 2016 8月 | 2016 9月 | 2016 10月 | 2016 11月 | 2016 12月 | 2017 1月 |

2017 2月 | 2017 3月 | 2017 4月 | 2017 5月 |


BACK | NEXT |

(C)DANCHOUTEI 2016