断腸亭料理日記2017
1月29日(日)夜
夜、なにを食べようか、考える。
土曜日が旧の正月であったが、
春も近いということ。
三筋の[みやこし]で天ぷら、と、思い付いた。
歌舞伎『三人吉三』の例のセリフ。
「月も朧に 白魚の 篝(かがり)も霞む 春の宵(中略)
こいつぁ〜春から 縁起がいいわえ」(大川端庚申塚の場)
まさに、今、である。
むろん、今時、隅田川で白魚など獲れないのは
知れたことではあるが、気分、で、ある。
[みやこし]にTELをしてみると、満席、とのこと。
人気なのである。
う〜ん。
どうしたものか。
天気予報と暦通りに、今日は少し温かかったが、
やっぱり、温かいものが食べたい。
と、なると、やっぱり鍋か。
では、先週のリベンジ、で、ある。
そう、おでん。
あまりにも寒くて、上野駅前で関西風おでんを
“主義に反して”食べてしまった。
おでんは、東京風のしょうゆで煮〆たものと
信じる私、で、ある。
よし、作ろう。
買いに出る。
おでん種が一通り入ったセットに加えて、是非とも加えたい種、
焼豆腐、がんもどき、つみれ、すじ、ちくわぶ。
さといもの水煮もあったので、これも。
さて。
今の煮込みののおでんというものは、江戸末期の江戸で生まれ、
明治に入り関西にも広まり、色の薄いつゆで煮た関西風が生まれ、
関東大震災後、上方料理の東京への流入とともに薄いつゆのおでんが
東京にも入り、今は東京でもこちらが定着している。
と、前から私は書いてきたのだが、今回もう一度
調べ直して、明治以降ではなく発祥時点にだが、異論、異説があることが
わかった。
今のおでんの元々は、豆腐などに味噌を塗ってたべる
田楽からきていることには異論はないようである。
豆腐を温めて味噌を塗る、あるいは塗ったものを
串に刺して焼く。
このバリエーションとして、こんにゃく、里芋などにも
味噌を塗って食べた、これも田楽。
江戸でも大いに流行った。
(池波作品にもよく出てくるが、菜飯とセットで出す
「菜飯田楽」の看板を掲げる店である。むろん屋台もあった。)
これに対して「上燗おでん」というものがある。
『守貞謾稿』という天保期に書かれた当時の風俗書に出てくるもので
振り売りの一つとして紹介されている。
燗酒と蒟蒻、江戸では芋(里芋)も、の田楽を振り売りする、
と書かれている。
これについて、
「おでん屋が登場する歌舞伎の「四千両小判梅葉」も、おでんはこんにゃくや里いもで、
呼び声「おでん燗酒、甘いと辛い」の「甘いと辛い」は、選べるみそだれ2種のこと。」
という説がある。(千葉大名誉教授・松下幸子氏)上記「紀文」サイト
湯で温めた蒟蒻や里芋に味噌だれを掛けるものを
味噌を塗って焼いた“焼きおでん”に対して、
“煮込みのおでん”といっていたのではないか、という。
しょうゆで煮込んだものが“煮込みのおでん”である、
という説に対する反論である。
「四千両小判梅葉」という芝居は黙阿弥先生の作品で今でも時々
上演されるようだが、初演は明治18年。
東京風のしょうゆで黒く煮〆たおでんは間違っても“甘く”はない。
売り声が本当ならば、これは甘い味噌だれか、辛い味噌だれで食べる
味噌おでんであることは間違いないと思われる。
私が、煮込みおでん=しょうゆで煮〆た東京風おでん、の
論拠にしているのは、落語「お若伊之助」である。
《「あっしは『に組』の初五郎てぇ頭取で、先生からのお使いで
取るもんも取りあえず飛んでめェりやした」
という言葉をおでんやと間違え、
「煮込みのおはつを差し上げたい。とろろもございます。」≫
という一幕。
ここに“煮込みのおでん”という言葉が登場する。
余談だが、談志家元も演ったし、志らく師他、現代も演る人はいる。
圓生師匠だと「根岸お行の松、因果塚の由来でございました」
なんという台詞で終わる、ちょっとグロい噺。
緊張感のあるストーリーの中で、引用した部分もそうだが、
笑いも多くはないがなん箇所かあって、その対比が妙におかしい。
好きな噺、で、ある。聞いたことがない方があったら、
是非おすすめである。
圓生師匠のもの。
さて。
≪「煮込みのおはつを差し上げたい。とろろもございます。」≫
の部分である。
まず「おはつ」とはなんであろうか。
そのまま聞くと「おはつ」というおでん種になるが、
そんなものは思い浮かばない。
あるいは初物(はつもの)の意味で、今日の口開けのお客、か?。
「とろろ」はとろろ芋なのか、とろろ昆布か。
どちらにしても、煮込みのおでんにはあまり入れない、か。
これ、現代の落語家師匠方は、どう解釈しているのか。
聞いてみたい。
まあ、仕込の洒落なので、多少無理があるのは考えられる。
私も、深く考えず、そう理解をしてきた。
あるいは、そうかもしれない。
つづく
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