断腸亭料理日記2017
2月19(日)夜
さて、日曜日。
2月に入ってからの課題であった、三筋の天ぷらや[みやこし]
で、ある。
毎週のように日曜日にTELを入れていたが、一杯で行けなかった。
少し前から予約を入れておく、という手もむろんあるのだが、
私の場合、思い付いて行く、という行動パターンが多く、
数日前から、というのはなんとなく、馴染まない。
それでこんなことになっているのではあるが。
それがやっと、今週は空いていた。
なんで今月、天ぷらなのか。
目当ては、白魚。
東京人であれば、この時期、伝統のメニューである。
毎度引いているが、
「月も朧(おぼろ)に白魚の篝(かがり)も霞む春の空、、」
歌舞伎「三人吉三廓初買」大川端の場。
「、、、こいつぁ春から縁起がいいわえ」でしめくくられる。
河竹黙阿弥作の七五調の名台詞(せりふ)。
これは節分の夜、なのである。
それで、春。
それも、初春。
広重「江戸土産 佃白魚網夜景」
旧の正月前後、隅田川では白魚が獲れた。
夜、篝火を焚いて、四手網で白魚を獲る。
この火は、初春の大川端の風物詩であったわけである。
佃島の漁師は、毎年の恒例として、漆塗りの専用の箱に
獲れた白魚を入れ、「本丸御用」という札を掲げて、江戸城まで
舟を飛ばした。
白魚が家康の好物であったことから江戸期ずっと続いていた、
佃島漁師達の誇りある行事であった。
隅田川の白魚というのは、戦後すぐまでは実は獲れていた。
2月「三人吉三」を演ってくれないだろうか。
浅草で「平成中村座」がよいか。
浅草寺ではなく、桜橋そばの隅田川っ縁(へり)。
大川端なので浜町「明治座」でもよいかもしれぬ。
そして、皆で白魚を食う。
天ぷら、にぎり鮨。
コースなどにせずに、ちょいと、でよい。
乙な企画だと思うのだが。
欲をいえば、隅田川で、白魚が獲れるようになってほしい。
それを食べたい。
東京湾奥などはきれいになったとはいえ、まだ獲れた魚を
食べる気にはならない。
また、白魚自体は隅田川からは完全にいなくなってしまった
のであろう。
なんとか、もっときれいにして、蘇らせたい。
夢であろうか。
閑話休題。
三筋[みやこし]18時。
やはりカウンターはほぼ満席。
ご飯のついた、5500円也の定食。
お通しは空豆。
海老、から。
これも江戸前の代表であった。
さいまき海老と呼んでいる、小型の車海老。
鮨やでも、そばやの天ぷらも、これを使うのが
本寸法(ほんすんぽう)であろう。
こんがり揚がった、頭もうまい。
いか。
むろん、すみいか。
これもやはり、江戸前の代表。
鮨やでもにぎるが、生をにぎるようになったのは、
明治以降のようである。
きす。
これは今でも東京湾で獲れている。
そして、真打登場、白魚。
親方は、宍道湖です、といっていた。
やはり汽水域で獲れるのである。
鮨であれば、生で軍艦がうまいが、
やはり、こうして天ぷらが、最高である。
穴子。
これもやはり江戸前の魚。
羽田沖など獲っている人はいるというが、
流通するほどではないのか。
野菜天。
椎茸、蓮根、小玉ねぎ。
蔵前[いせや]の先代親方がいっていた記憶があるが、
本来の江戸前天ぷらでは野菜は揚げなかったというが、
どれも、格別にうまい。
最後のかき揚げは天丼にしてもらう。
小柱。
青柳・ばか貝の貝柱である。
これはまだ千葉方面で獲れている。
赤出汁は蜆。
うまかった、ご馳走様でした。
腹一杯。
本当の江戸前だけで天ぷらが食える日は、
果たして訪れようか。
台東区三筋2-5-10 宮腰ビル1F
03-3864-7374
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