断腸亭料理日記2017
12月19日(火)昼
AM、京橋で仕事。
昼飯はどうしようか。
銀座方面かな。
旧京橋南詰の喫煙スペースでたばこを吸いながら
なにを食べるか、考える。
ここからだと洋食[煉瓦亭]、[グリルスイス]、、あたりか。
てくてく歩いて[煉瓦亭]前まできてみる。
[スイス]は[煉瓦亭]の一軒、二軒置いたほぼ隣。
[スイス]はカツカレーだが、カツカレーの気分ではない。
カレーはやっぱり夏、である。
[煉瓦亭]だ。
むろんここは、池波レシピ。
「むかしの味」池波正太郎 新潮文庫
「子供のころの郷愁をさそうポークカツレツとなれば、
なんといっても銀座の煉瓦亭だろう」などと書かれている。
ここでも書かれているが先生のとんかつ好きは有名である。
だが、目黒[とんき]や、上野[ぽん多]のとんかつと、
洋食やのポークカツレツとは別のものであると書かれている。
とんかつやのものよりも、洋食やのポークカツレツはちょっと薄め。
ラードの香りがぷ〜〜んとにおってくる、これがよい、と。
そして、先生の子供の頃の洋食やのポークカツレツを
体現しているのが、ここのものだと。
余談だが、この同じ項に先生は、子供の頃の住まいがあった浅草永住町の
町内にあった洋食やからよく出前を取ったと書かれている。
永住町は今私が住んでいる元浅草の旧町名。(私の住むのは
元浅草でも永住の隣の七軒町であるが)。
こういう繁華街ではない町場にもそばやや鮨やとともに
洋食やもあって、出前をした。この洋食の出前は子供だった
池波少年にはそばや鮨以上に特別なものであったと。
今も上野浅草、その他下町の古い洋食やは出前をするところが多い。
雷門通りのハンバーグの[モンブラン]、あるいは
稲荷町の[ベア]は拙亭でもよく取っている。
閑話休題。
[煉瓦亭]の摺りガラスのドアを押して入る。
以前はここにドアマンのように老齢の細身で上品な男性(ご主人?)が
立っておられたが、今はいない。
一人、というと、地下へどうぞ、とお姐さん。
まだ12時少し前で、あいているテーブルも多い。
すべてのテーブルに赤いチェックのビニールのテーブルクロスが
かかっているが、これがここのトレードマーク。
座る。
寒いので、温かいもの、温かいもの、、、。
まあ、洋食やで冷たい料理というとサンドイッチくらい
かもしれぬが、、、。
池波先生のポークカツレツ、でもないなぁ、、、。
ん!。
グラタン。
これは温まる。
それから。店の外にも貼り紙が出ていたがメニューにある
「かきフライ始めました」。
こういうものを見るとやはりどうしても素通りができなくなる。
ちょっと量が多いかもしれぬが、両方もらおう。
むろん、ライスはなしで。
グラタンはいくつかあるが、海老のもの。
グラタンからきた。
これこれ。
器からあふれそうである。
ここのグラタンは初めてかもしれぬ。
ん!。
海老が芝海老なのか、小さいものだがぷりぷり。
お!。なぜだか、マカロニが長い。
一本5cm程度はありそう。
ベシャメルソースはゆるめ。
温まる。
かきフライもきた。
レモンを絞って、食べる。
そういえば、今シーズンは[ぽん多本家]でも食べた。
あちらの方がかきは少し大きかったかもしれぬ。
サクサク。
かきはうまみたっぷり。
タルタルソースもクラシックな味でうまい。
しかし、こういう頼み方は、贅沢であるが、
うれしい。
「大人買い」という言葉があるが、まさにそれ。
池波先生も、書かれているがカニクリームコロッケの
セットのライスをチキンライスに替えてもらう、など
である。
子供の頃はしたくてもできなかったのを
自分でお金を稼げるようになってやってみる。
ささやかではあるが、ちょっとうれしいこと、である。
(まあ、とはいっても[煉瓦亭]に限らぬが、
東京の老舗洋食やは決して安くはない。
一品で頼むものを二品一度に頼むのはお安くはないが
たまにくる店である、このくらいはしたいものである。)
うまかった。
ご馳走様でした。
立って、再びコートを着込む。
上にあがって、出入り口付近の帳場で勘定。
ん!。
ここの帳場の男性、そこはかとなく、以前に
ドア前に立っておられた老齢の男性と雰囲気がどこか似ている。
今のご主人でなのであろうか。
創業1895年(明治28年)。
現存する東京の洋食やとすれば、上野[精養軒]に次いで古いと
いえようか。※
やはりここも、東京の重要無形“食”文化財として
残さなければいけなかろう。
※上野精養軒は明治5年(1872年)に築地でホテルとして創業。
同9年に上野公園内に移転。鹿鳴館以前の明治新政府の外国公使などを
接待する迎賓館的役割を担っていた。民間とはいえちょっと別格。
洋食の歴史、その次は本当はホテルであるが帝国ホテルになると思う。
帝国ホテルは1987年(明治20年)の創立。そして煉瓦亭、という順番になるか。
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