断腸亭料理日記2016

浅草松屋・銀座すし栄 その2

12月3日(土)第二食

引き続き、松屋浅草の銀座[すし栄]。

少し待って、きた「旬彩にぎり」。

品書きに書かれていた名前の順で書いてみる。

寒鰤(ぶり)とろ、寒鯖、鮟肝、ずわい蟹、旬の白身昆布〆
つぶ貝、特上煮穴子、づけ鮪、とろ、かんぴょう巻。

写真下、左から、鰤、つぶ貝、穴子。
中段、白身、とろ、鯖、づけ、
上、かんぴょう巻、鮟肝、ずわい蟹。

こんな感じ、で、ある。

鰤は脂はあるにはあるが、
まだ、寒鰤と呼ぶには早かろう。

つぶ貝は、瑞々しい。

穴子は薄味で煮てあり、
炙ってにぎられている。
江戸前仕事、で、ある。

白身昆布〆は聞かなかったが、
品揃えからおそらく平目であろう。
昆布の香りとうまみが、よい感じ。

とろ、というよりは、中とろぐらい。

〆鯖、強めの塩で〆られてあり
これもそれらしい江戸前仕事。
脂もある。

づけ。見たとおり、漬け具合は浅め。
うまい赤身である。

ずわい蟹、鮟肝。
冬の味覚で、うまいが、この手のもの
にぎりの鮨でなくてもよろしかろう。

「旬彩」を食べ終わり、追加。

やっぱり、鮨やで小肌は落とせない。
そして、好物の光物、もう一点、鯵。
さらに、車海老。
鮨やで定番の茹でた海老。
もともと東京湾で獲れた小さめの車海老で、さいまき海老、
ということもある。

普通、江戸前鮨で、海老といえば、これのこと。
ここは自分でゆでている。やはり頼まねば。

回転寿司などではほぼ100%、どこの海老だかわからぬ
既に茹でたものが流通しているので、そういうものを
使っていると思われる。
はっきりいってパサパサでうまくもなんともない。

そうである。回転寿司どころではない。
子供の頃から、海老というのはそういうものと
思ってきた。
出前などにも海老は必ず入っていたので、おそらく、
その頃から、町の鮨やでも既に茹でたものを買ってきて
握るのがあたりまえになっていたのではなかろうか。

最もうまいのはむろんゆで立て。
粗熱がなくなったぐらいに皮をむいてにぎる。
みずみずしく、ぷりぷりであまみが豊富。
まるで別ものである。
高級店はお客の注文があってゆで始めるところすらあるのだが、
そうでなくとも、まあ、その日にゆでたものであれば、
十分にうまい。ここはその口であろう。

小肌はちょっと大きめのものであろう。
半身を全部使って、細かい仕事だが、さらに身を開いてある。
〆具合は強くもなく、弱くもなく。
ノーマル、で、あろう。
過不足なく、うまい。

鯵。
これも〆てある。
酢で洗う程度のものもあるが、
これは珍しく、ちゃんとそれとわかるほど。

御馳走様でした。

腹も一杯。

うまかった。

さて。

この店は貴重だと思うのである。

デパ地下ということもあるが、リーズナブル。
だが、さすがに最古の鮨やと、名乗っているだけあって、
小肌だったり、穴子だったり、ちゃんとした江戸前仕事を
するべきものはしてある。

先に書いたが、鮟肝やら蟹の軍艦巻きなど、本当は
ない方が、江戸前としては正しいのであるが、
やはり、完全に江戸前仕事だけでは、さびしい、
と、いうのも分かる。

逆に回転寿司などでは、(コテ盛りの)こういうものを
看板にしているのを見かけるが、やっぱりだめである。

ついでに書くと、同じにぎりでも、種が酢飯の長さの
倍ぐらい、これでもというくらいの長さにしている
ようなのも、だめである。

柳橋[美家古]の別れで、神田[鶴八]の先代親方が
著書に書かれていたが、にぎりの鮨の酢飯と種には、
適切なバランスがあるのである。

酢飯と種をにぎってよりうまくなる。
これがにぎり鮨なのである。
従って、合うものもあれば、合わないものもある。
無理に、軍艦巻きにするのはあまり意味はなかろう。

長年積み重ねられて得られた、酢飯と種の割合には
意味があって、それを壊すほどの大きな種に
したいのであれば、それはもうにぎりの鮨ではない、
のである。(刺身で食べればよい。)
(酢飯を減らしたいのであれば、相似形で
種も小さくするのである。)

おそらく[すし栄]の板さん達は本能的にしろ、
こういうことをわかっているのであろう。

東京の高級な江戸前鮨やでは、むろんわかっている。
だが、高い。

希少で高価な種でなくてよい。
そこそこの値段で、うまい、正しい江戸前鮨が(も?)
食べられる、松屋浅草の銀座[すし栄]は
私には、ありがたい。




すし栄





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