断腸亭料理日記2016
12月3日(土)第二食
AM、馬込へ。
先日亡くなった叔母の後始末が続いている。
相続などもあって、まだしばらくは続く。
役所やらをまわる、そして事務作業やら、時間的にも
精神的にもなかなかハード、ではある。
都営浅草線で戻ってくる。
私の住む浅草と馬込方面は都営浅草線で
一本なので、これはありがたい。
さて。
気分を換えて、
なにか食べよう。
鮨。
久しぶりに、浅草松屋地下の[すし栄]に行こうか。
ちょいと寄れる、デパ地下。
だが、デパ地下とあなどることなかれ、
ちょっと変則ではあるが、池波レシピ、
と、いってよい。
池波先生は、銀座高島屋の地下にあった
この店に豊子夫人と買い物のついでに寄っておられた。
嘉永元年(1848年)創業という。
「現存する最古の寿司処」(HP)。
嘉永というのは幕末。
さらにいえば、ここが幕末の始まりといってよいだろう。
5年後の嘉永6年(1853年)には、そう、ご存知、
ペリーが浦賀に来航している。
『泰平の眠りを覚ます上喜撰 たつた四杯で夜も眠れず』
ここから幕府瓦解に向かって江戸、京、そして国中が走り始める、
その直前である。
では、そもそも江戸前のにぎり鮨というのはいつ生まれたのか。
嘉永元年からはさらに30年ほど前の文政7年、
華屋與兵衛という人物が両国に[與兵衛寿司]を開き
ここで初めてにぎりの鮨を売ったといわれている。
それまでは江戸でも鮨といえば、押し寿司が
一般的であったわけだが、これを酢飯とともに
種を手でにぎり、即席の鮨にした。
この與兵衛のにぎりの鮨は瞬く間に江戸中に広まり、
安い屋台から、店を構えた料亭並の高級店まで現れるまでになった。
発祥から17〜8年程度後(1841年〜43年)の水野忠邦の
天保の改革では奢侈にすぎると、與兵衛などは
投獄までされている。
水野老中はすぐに失脚し、天保の改革での
引き締めはすぐに元に戻っているので、鮨やも、
再び店を増やしていたのであろう。
[すし栄]の創業はその天保の改革から
5年ほど後ということになる。
江戸創業と名乗っている鮨やは他には
柳橋の[美家古]の本店、ここが文化年間。
同系の浅草の弁天山[美家古]が慶応2年、
あたりであろうか。
江戸発祥の江戸前にぎり鮨、ではあるが、
やはりこれはいかにも少なく思われる。
毎度書いているが、東京で現代まで続いている
江戸創業の飲食店というと、なぜだかうなぎやばかり。
江戸名物の食いものといえば、うなぎ蒲焼、
天ぷら、蕎麦、にぎり鮨の四つが挙げられると
思っているが、うなぎや以外はどれも
数えるほどしかない。
浮き沈みの激しい食いもの商売で、
同じ暖簾を続けることの難しさというのは
計り知れないものがあるのであろう。
ただ、うなぎやだけが多く残っている、のは、
それだけうなぎやが飛び抜けて客単価の
高い商売であったから、であろう。
鮨も含めて先の書いたように、高級店というのは
江戸の頃からあったわけだが、天ぷらも蕎麦も
屋台での営業も同時に存在しており、基本は
客単価の安い商売であったのが原因ではないか
と、考えている。
そんなわけで、銀座[すし栄]。
少し前には、高島屋の地下以外にも、名前通り
銀座に本店があったのだが、今は実際に
カウンターに座って食べられるのは
ここ松屋浅草の地下だけ。
入ったのは13時半。
時分時(じぶんどき)をすぎて、先客は、特上をつまんでいる
地元風の高齢で元気のよい女性一人。
一番奥に座って、瓶ビールといつもの「旬彩にぎり」、
1,890円也を頼む。
箸袋としょうゆの小皿に描かれている
顔のキャラクターが可愛い。
これは漫画「フクちゃん」の横山隆一氏の
筆によるものという。
「フクちゃん」というのは私もリアルタイムでは
知らないが、早稲田大学の応援部のマスコットとして
使われてきたので早大の方は馴染が深かろう。
(もともとは戦前から戦後にかけて朝日新聞に
連載されていた四コマ漫画だが、さらに私は知らなかったが、
1982年(昭和57年)からアニメ化されていたよう。)
このキャラクターはちょっとわかりずらいが、
にぎり鮨を口に入れているところ。
確かなことはわからないが、作られたのは
昭和30年、40年代なのか、かなり古い頃のこと
なのであろう。
ここはデパ地下、持ち帰りの店売りが主なのであろう、
三人いる板さんは仕込み中のようで大忙し。
少し待って、きた「旬彩にぎり」。
いつもこれを頼むが、名前の通り、旬の種を
盛り込んでいる。
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