断腸亭料理日記2016
12月22日(金)〜25日(日)
引き続き、箱根・塔ノ沢の[福住楼]の数寄屋造り。
今年の部屋は桜の三。
これが、先に書いた入口。
廊下から引っ込んで左側が入口である。
茶室の入口のような感じすら漂う小さく見える。
ここも上部にアールがついている。
ちょっと見ずらいが板戸の下部。
ここにも装飾がある。
木の色の濃淡で、市松模様になっている。
突き当り、広重の五十三次、箱根が掛かっているが、
ちょっとした棚になっている。
仲居さんがここにおぼんなどを置ける。
そしてここにも網代(あじろ)の装飾。
廊下に出る。
正面が硝子窓。
開けるとここは外に流しがある。
仲居さんが洗い物をしたり、お客は歯を磨いて顔も洗える。
流しは水道の蛇口があって、シンクは銅張である。
この硝子窓も曇り硝子と透明な硝子の組み合わせ。
やはり桟もおもしろい幾何学模様。
その硝子窓の下も細い竹を貼ってあり、芸が細かい。
左が三階への階段、右が一階への階段。
階段の木の手すりが明るいいい色である。
この木はなんであろうか。
木の種類がポイントなのかもしれぬ。
右側。
下への階段の左は便所。
この戸も上部が硝子で中央から下が
先ほどの中入口と同様の木の色の濃淡で
市松模様。
階段上の白い漆喰の壁には扇の装飾。
扇も木の色の濃淡で表現されている。
色を使わないで濃淡と表面の質感だけで表現する
というのは、水墨画と同じ考え方であろう。
下への階段。
むろん新しくはないが、磨き込まれている。
降りて、左側の廊下。
奥へいくと、大広間、さらに離れ座敷。
これはなんというのか、手すり?欄干?。
彫刻があるが、これは蝙蝠(こうもり)。
蝙蝠はこの宿のマスコットで、色々なところに
彫られている。
蝙蝠の下の幾何学模様もおもしろい。
右へ階段を二つ降りると、風呂。
風呂は岩風呂と丸風呂の二種類あって、
時刻によって、男湯と女湯が入れ替わる。
夕方のこの時刻は丸風呂が男。
時刻もまだ早いのもあるがちょっと外せば
他のお客さんに出くわさない。
風呂場の戸。
上部、欄間。
波と鳥。
鳥は、千鳥であろうか。
これ、好きなのである。
「波に千鳥」と一般には呼ばれている
江戸からの決まりものの意匠といってよいだろう。
着物、浴衣、手拭いの柄等々に使われてもきた。
しかしこの欄間はなかなかアーチスティックで、
おもしろいのではなかろうか。
右側の波が、蛸のようにも見えるのだが、
気のせいか。
この「波に千鳥」といえば、お馴染みは、これ。
(Wikipedia かき氷より)
そう、かき氷の旗、で、ある。
千鳥の意匠はこのかき氷の方が見慣れている。
この千鳥は可愛い。
確か、子供の頃、削り節の箱にも「波に千鳥」が
使われていたが、そこに描かれていた千鳥が好きであった。
削り節は四国愛媛のマルトモ。当時、子供心にこれが鳥のようだが
愛嬌のあるちょっと妙な雰囲気を感じて、とても気になったのである。
だがまあ、この欄間に、よく見る千鳥を彫ってしまうと
俗な印象になってしまう、ということかもしれぬ。
そう、これ、なにやら格調が感じられると思われまいか。
また、波といえば、これ。
あまりにも有名。
ご存知、北斎の富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」。
江戸の頃、波だったり鳥だったりいろいろな意匠が抽象化され
文様として定着していった。
さすがにここには千鳥は飛んでいないようである。
波の最高傑作がこの北斎の作品であろう。
だがどうしてどうして、この欄間もおもしろいと
思うのだが、いかがであろうか。
与太話が長くなってしまったのだが、
先にも書いたが、私にとってこの[福住楼]のよさは、
このあたり、なのである。
つづく
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