断腸亭料理日記2015

神楽坂・蕎麦・翁庵

5月19日(火)昼

さて。

午後から名古屋出張。

昼飯は神楽坂で食ってから総武線に乗ろうか。

なぜだか、昼に新幹線に乗るとなると神楽坂で昼飯、
というのが多いのである。

そうだ。、今日は久しぶりに、坂下の蕎麦や[翁庵]で、
かつそばを食べよう。

こう暑くなってくると「冷やしかつそば」の季節である。

なん度か書いているのでご記憶の方もあろうが
神楽坂[翁庵]といえば、かつそばである。

かつそばというのは、むろん
とんかつがのったそば。

ゲテ、と、笑うことなかれ。
かなりの完成品である。

元来私は奇を衒った食い物は嫌いである。

例えば、路麺(立ち喰いそばや)でもコロッケはのせない。

やはり甘辛のつゆには天ぷらの方がうまいから。

路麺では定番の玉ねぎやらが入ったかき揚げや、
春菊のかき揚げをいつも食べるが、コロッケはこれを
超えるとは思えない。

より慣れ親しんだものがあるのに、
なにも、ミスマッチの可能性のあるものを
選りによって食べなくともよいであろう、ということである。

まあ、ただこれは、多分に食わず嫌いなのではあるが、、。

そんなことなので、この[翁庵]へきて、名物であると
聞いたのだが、やはり食べてみるのには、実際にはそうとうに
勇気が必要であった。

2006年

今から、もう10年近く前。
おそらくこれが最初である。

ただ、やっぱり、食べてみれば食わず嫌い。
甘いつゆがかつに合ってうまい、などと書いている。
それでも本当の本心は、まだ半信半疑であったと思う。

やっぱり、なにも好き好んで、ヘンなもの食べなくても、
という心持はあった。

このかつそばというのは、基本は温かいもの。

これに冷やした、冷やしかつそばなるものがあって、
初めて食べたのがその少し後

この時も、そうとうに驚いている。

とんかつを冷やすのか!?。

普通に考えると、意味が分からなかろう。

あまりにもゲテ、ではないか、と。

しかしまあ、食べてみると、むろんまずくはない。
ただ人間というもの、なかなか既成のイメージから脱する
ということは難しい。

その後も冷やしも含めて、なん回か食べているが、
半信半疑の状態は変わっていなかったのだと思う。

それが大きく変わったのは、昨年である。

毎月5日は、かつそばが¥500になる。
たまたまこの日に出くわし、知らずに頼み、後から
¥500であったことがわかった。

この時は、お客のほとんどはやはりかつそばを
頼んでいた。

どうもこれで、一気に本当のかつそばファンに
なってしまったようなのである。

安いというのもあろうが、やはり、かつそばが好きな人、
期待して食べにくる人というのも多いということ。
やはり、うまいのである、と、自らに言い聞かせることができた、
とでもいうのであろうか。

かつそばの日、¥500。
効果は絶大である。

このかつそばはこの店でどのようにして生まれたのであろうか。
(おそらく、ここのオリジナルであろう。)

聞いてみたわけではないので、想像である。

この家は明治の創業で、立派な老舗であるが、
かつそばができたのは明治、大正、昭和初期ではなく、
戦後のことではなかろうか。

基本、この神楽坂下あたりは、理科大、法政があり、
学生街といってよい。
戦後、昭和30年代ぐらいではなかろうか、そのあたりに
学生向けに考えた。(わからぬが。)

そうすると、もはや生まれてから50年くらいは経っている。

かつは自前で揚げているのではなく、肉やに特別に頼んで
これ専用に揚げてもらっているという。

かつの厚み、油の加減。
つゆとの相性、などなど、そうとうに工夫をしたのではなかろうか。

温かい方にしても、冷やしにしても、今になって改めて
思うがやはり完成されている。

だが、見た目にはやはり、妙。
インパクトがありすぎる。しかし、実際には、50年が経ち、
私は名作といってよいほどのものになっているのでは
ないかと思っている。

と、いうことで、暑くなり、冷やしの季節。


神楽坂下、蕎麦[翁庵]の冷やしかつそば、である。
(生玉子はサービスのもの。)

かつもうまいし、そばもシャッキリ。

珠玉の一杯といってよろしかろう。



翁庵





  

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