断腸亭料理日記2015
1月25日(日)昼
さて。
稲荷ずし、で、ある。
おいなりさんでもよいのだが、
稲荷鮨でもなく、稲荷寿司でもなく、やっぱり
稲荷ずし、が、よさそうである。
なぜだかわからぬが、昨日から稲荷ずしが
食べたくなっていたのである。
おおかた、なにかのTVで一瞬出てきた、
くらいのことであろう。
午前、米を研ぎ、浸水をさせておく。
昼前に、内儀(かみ)さんに油揚げと、
蓮根を買ってきてもらう。
蓮根は酢蓮(すばず)にして、稲荷ずしに
一枚入れる。
酢蓮というのは、薄切りの蓮根の酢漬け
で、ある。
なぜ酢蓮を入れるのかというと、以前に
稲荷ずしを名物にしていた箱根湯本の鮨やがこれをしており、
乙なものであると、感心したことがあったのである。
お稲荷さんには、なんにも入らなくともよいようなものだが、
やはり、さびしい。
ちらし寿司のように、干瓢やら錦糸玉子やら
いろんなものを入れてもよいのだが、
酢蓮一枚を忍ばせるくらいが手間もかからぬし、
やはり、よい。
先週、落語のことを延々と書いてしまったが、
実は、このおいなりさんがきっかけであった。
おいなりさんというのは、落語に出てくるのかといえば、
噺の大きな筋に関係のあるものではないが、たまに
顔を出すことがある。
昔、稲荷ずし売り、というのがあった。
だいたいは夜の町の描写に使われるが、
夜も遅い時刻であろうか、売り声としては
「おいなぁ〜りさん」といって、夜食として
売り歩いていたという。
「時そば」に出てくる担いで売るそばやでも
ある程度開店資金は必要だが、稲荷ずしであれば、
作って、売り歩けばよい。元手は材料費くらいであろう。
簡単なアルバイトというのか、小遣い稼ぎ。
朝は納豆売り。夜は稲荷ずし売り。
そんな位置付けのものと思われる。
では、稲荷ずしが生まれたのはいつ頃か。
この前も書いたが江戸でにぎり鮨ができたのが
文政の頃で、少なくともその後。
稲荷ずしは、文献には天保以前にはあったとあるようで、
とすると、文政の頃、にぎり鮨が生まれてすぐ、かもしれない。
生まれたのは、名古屋という説もあり、また、
江戸ともいい、これはよくわからない。
油揚げを甘辛く煮て、酢飯を詰めるだけなので、
にぎり鮨はもとより、海苔が貴重であった当時とすれば
海苔巻よりもお手軽で、さらに安価なものであったはずである。
今でもむろん、そうとうお手軽にできるが、
それ以上に、うまい。
時折、無性に食べたくなる。
作る。
蓮根は皮をむき、ごく薄く、できれば1mm以内にスライス。
厚い酢蓮は野暮ったい。このくらいが歯触りがよいと思う。
切れたら、茹でる。
ボールに甘酢を作っておいて、茹でたら湯を切って
温かいまま、甘酢に入れる。
酢蓮は内儀(かみ)さんが好きでよく作っているので
このへんは、内儀さんのやりかた。
温かい方が酢が入りやすいのだそうな。
漬けておく。
油揚げの方。
三枚入りのものを買ってきたので、半分に切って六つ分。
鍋に少量の水と酒、しょうゆ、砂糖。
これで油揚げを煮る。
煮ふくませる、といった方がよいのかもしれぬ。
ある程度汁けが少なくなってきたら、菜箸で揚げを押し付けて
煮汁を出し、さらに煮詰め、また揚げにふくませる。
これを繰り返し、濃い甘辛にしていく。
OK。
置いておく。
飯を炊く。
これはいつもの通り、ホーローの鍋でガス。
炊いている時間は15分ほど。
火を止めて、10分程度の蒸らし時間。
鮨酢を用意。1合分、40CC。
飯台に飯を1合分取って、酢を混ぜ入れ、合わせる。
寒いのですぐに飯が冷めてしまうので、手早く。
OK。
これも10分置く。
揚げ。
酢蓮。
稲荷一つに酢蓮1枚。
大きいので入れやすい大きさに切っておく。
準備完了。
酢飯の粗熱が取れたら、揚げに酢蓮を一枚入れ、酢飯を詰める。
出来た。
別段、たしたコツはいらなかろう。
酢飯がある程度ちゃんとできていれば、揚げを煮るのも
難しいことはない。
が、うまい。
(こういうものこそ、自分で作るとなおうまいかもしれぬ。)
これ以上足すものも引くものもない。
いわば完成された姿であろう。
江戸人に感謝、で、ある。
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