断腸亭料理日記2014

上野藪蕎麦

(今日は少し戻るが、上野藪のこと。)

11月11日(火)夜

新幹線で19時すぎに、帰京。

例によっての日帰り出張だが、
帰京といっても、東京駅ではなく上野である。

さて、なにを食べようか。

やっぱり、温かいものが食べたい季節になってきた。

また、日が落ちるのも早くなった。
むろんもう真っ暗。

上野[藪蕎麦]にでも寄ろうか。

最近、帰り道、上野駅に降りるのが増えて、ここに寄ることが
多くなっているかもしれない。

上野界隈には老舗の薮蕎麦が二軒ある。

一つは、創業家に近い三薮の一角、池之端の[薮蕎麦]。
もう一つが、上野[薮蕎麦]。

とはいっても、上野[薮蕎麦]も創業は明治25年で、
戦後、浅草並木から暖簾分けされた池之端よりも
むしろ古い。

通勤経路の地下鉄の広小路駅からだと、池之端の方が
近いので、出張などが少ないと、池之端の方になる。

それで今日は上野の[薮蕎麦]。

ここも、土日には観光客も加わって行列になるが、
ウィークデーの夜はそんなこともなく、狙い目、かもしれない。

上野駅の広小路口から出て
真っ直ぐに、丸井側に通りを渡る。

丸井の右側の通りに入り、右側が
パチンコややらの前を通って一本目の角、向こう側が、上野[薮蕎麦]。

自動ドアを入って、お姐さんに、一人、と指を出す。

カウンターになっている真ん中の席に座る。

座れるが、八分は埋まっている。

やはり、お酒であろう。

「お酒、お燗で」と、頼む。

すると、注文を通す声。

「お酒、熱燗」。

ゲッ。熱燗はいけない。

毎度書いているが、お燗の酒、といえば、なんでもかんでも
熱燗になってしまうのは、まったく困ったものである。

それも、こんな老舗の蕎麦やでも。

燗酒といえば、熱燗を頼む人が最も多いから、こいうことに
なっているのであろう。

本当に熱燗で飲みたい人は別段とめはしないが、
たいして考えもせず、熱燗というのはやめてほしい。

燗酒のデフォルトは、熱燗ではなく、上燗。

熱くもなく、ぬるくもない、普通の温度があるであろう。

お燗、といえばよいのである。
そして、お燗といえば、熱くもなるぬるくもない、普通の
温度の燗酒を出してほしい。

燗に向いているといわれる山廃、生元系、例えば菊正宗でも
熱燗というのは、薦めていない。

よい酒であれば熱くしてはいけない。

皆さん。なんでもかんでも、熱燗というのは、
やめてください!。

と、いったところで、燗酒が出てきた。

呑んでみると、実はこれが熱燗ではない。
まあ、上燗であろう。

調理場は、ちゃんと配慮はしている、と思われる。

どちらにしても、燗酒を指す言葉が“熱燗”になっている
のである。

ともあれ。

今日は、肴はもらわずに、蕎麦にしよう。

メニューをみると、目立つところに、牡蠣蕎麦、が、あった。
もうそんな季節になったか。

牡蠣蕎麦というのを出すところが、他にもあったろうか。
覚えていないが、ここでは毎年冬には出して、
これがまた、うまい、のである。

燗酒を呑みながら、待つ。

きた。

これが上野藪の牡蠣蕎麦。


大ぶりの、ごろっとした牡蠣が四つ、五つ。

柚子の皮に長く細く切ってちょっとひねった長ねぎ。

牡蠣は、炒めていると聞いたことがある。

つゆにも牡蠣のうまみも溶けている。

うまいこと、この上ない。

まさに堪えられない味。

これが食べられることに、心からの幸せを
感じる。


牡蠣蕎麦、上野[藪蕎麦」の、冬の愉しみ、で、ある。





台東区上野6-9-16
03-3831-4728



 


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