断腸亭料理日記2014
5月20日(火)夜
さて。
並木の[藪蕎麦]
、で、あった。
並木、と、いうのは、昔の町名である。
今は、雷門二丁目。
雷門の正面から真っ直ぐ南へ向かっている通りは駒形橋の
西詰めの交差点にぶつかるが、この通りが並木であった。
雷門から見てこの通りの右側。
もともとはこのあたりに雷門という町名はなかったのである。
東武の浅草駅を出てきて、通りを渡り、新仲見世(シンナカ)経由で
仲見世の裏を抜けて、雷門。
雷門もウイークデーの夜というのにまだ随分と記念撮影の
人々であふれている。
少し前なら、土日昼間の人出くらいではなかろうか。
雷門というのは、浅草を浅草たらしめている最たるものであろう。
これがなければ浅草ではない。
写真を撮りたくなるものよくわかる。
赤い大提灯に「雷門」と大書してあるのも、漢字のわからぬ外国人には
意味はわからなかろうが、目を引くマークとしても、まことにわかりやすい。
門としてはこの奥の仁王門の方がずっと大きく、あるいはお堂に向かって
右側にある二天門などは江戸初期のもので重要文化財だが、圧倒的に、
雷門の存在感は大きい。
だがまあ、なんにしても、にぎやかなことはよいことである。
人混みを縫って、門の前のスクランブル交差点を斜めに渡り、
並木の通りを真っ直ぐに歩いて[藪蕎麦]到着。
暖簾を分け、くもり硝子の入った格子を開けて入る。
なぜだか、テーブル席はほぼ満席だが、
小上がりの座敷のお客は、一組だけ。
座敷に上がる。
いつものように、お姐さんが、お膳に新聞を置いてくれる。
まず、
お酒冷(ひや)で!。
お酒がくるまでに、肴を考える。
冬、ここへくると、迷わず天ぬき、なのだが、
さすがに天ぬきの季節でもない。
うーん。
と、酒がくる。
ガラスの小ぶりのコップ。
よし、肴は、とろろ、だ。
この店の品書き上の名前は、わさび芋。
すぐにくる。
芋はとろろ芋のこと。
これは文字通り、とろろ芋とわさびに、しょうゆに入った小さな器。
池之端の藪蕎麦だと、すいとろ、と、いって、
蕎麦つゆで伸ばした味付きのものがあるのだが、
わさびじょうゆではなく、ほんとうは、あちらの方がよい。
しょうゆを、とろろにかけて、わさびをなめながら、
つまむ。
頼めば、そばつゆをもらうこともできようか。
今度聞いてみようか。
昼間、気温が高かったので、菊正の樽の冷酒(ひやざけ)うまい。
グラスが大きいせいもあって、ぐいぐい入ってしまう。
お酒、もう一本!。
樽の香りは、私なども呑み始めた頃は、ちょっと違和感を
感じていたのだが、最近は随分と慣れて、うまく感じるように
なってきた。
菊正宗の樽は吉野杉らしい。
さわやか。
そばをもらおう。もちろん、ざる。
ここも、注文を通す声が昔風。
ざるいちまぁ〜い、ほんぜんついて、・・・のむかうかべ、、、
むろん店の符丁なので、よくわからぬのだが、
こんな感じであろうか。
この声は、(今は閉店中だが)神田、池之端、そして浅草並木の
三藪のもので、そういえば他では、藪系でも聞いたことがない。
ざる。
(そばがピンボケになってしまった。)
酒も残っているので、呑みながら、そばをたぐる。
濃いつゆを少しだけつけて、たぐり込む。
しみじみと、うまい。
そばというのは、不思議なもので、呑みながらも
食べられる。
うまかった。
ご馳走様です。
座って、お勘定。
よっこらしょ、と、立ち上がり、靴を履く。
二合呑んで、よい気分。
「ありがとうございまぁ〜〜す。」
「ご馳走様です」
格子を開けて、出る。
外はまだまだ人出も多い。
涼しくて気持ちがよい夕、で、ある。
ぶらぶら歩いて帰ろうか。
03-3841-1340
台東区雷門2丁目11−9
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