断腸亭料理日記2014
6月4日(水)夜
水曜日。
仕事帰り、なにを食べようか、考える。
今日は上野御徒町で降りて、松坂屋へ寄ってみることにした。
最近、広小路の松坂屋はリニューアルしたが
ちゃんと見るのは初めてである。
丼もののイートインコーナーなどできている。
そのせいであろうか、食品売り場自体は、狭くなっているような
気がするのだが、気のせいであろうか。
洋食、あるいはフレンチのお惣菜でも
買って帰ろうかと思ったのだが、今一つピンとくるものがない。
代わりに、臨時の企画もののようだが、根岸の老舗豆腐料理店
[笹乃雪]が出ていた。
[笹乃雪]の豆腐は、以前、牛込神楽坂駅そばのスーパーに
置いていたので、たまに買っていたのだが、
あまり売れなかったからか、いつしか置かなくなってしまい、
最近では買えなくなっていた。
皆さんは[笹乃雪]という家をご存知であろうか。
私自身、子供の頃から実に最近まで、豆腐というものは
たいしてうまいものではない、と、ずっと思ってきた。
それが、ここの豆腐を食べて、実にうまいものである、と
豆腐というものも認識をあらためるきっかけになった
のであった。
今はそうでもないのかもしれぬが、
以前スーパーなどで安く売っていた豆腐は
水っぽくて、豆腐らしいうま味というものが
なかったのでなかろうか。
そういうものを豆腐と思って育ってしまったから
なのかもしれない。
根岸[笹乃雪]。
いや、その前に、根岸。
台東区にお住いだったり、ご近所の方は、
説明はいらないかもしれぬが、東京の方でも
今はあまりピンとこない地名ではなかろうか。
駅でいえば、山手線の鶯谷。
鶯谷は上野の次(北)。
江戸の頃のものの本には「呉竹の根岸の里は
上野の山陰にして幽趣あるが故にや。
都下の遊人多くはここに隠棲す」、などと
書かれている。
上野の山とにはむろん、幕府の菩提所でもある、
東叡山寛永寺があったわけである。
寛永寺の主(あるじ)は輪王寺の宮様と呼ばれ、代々
京都から今でいう皇族、宮様が務めていたわけだが
その別邸がこの根岸にあった。
また、江戸期を通して大店の寮(別荘)やらあり、江戸の市中から離れ、
風流人が棲むところであった。
明治になってもかの俳人正岡子規なども住居し、
引き続き風雅な場所であったと思われる。
鶯谷という駅は明治45年の開業でおそらく
この前後が境なのであろう。
この風雅な里は、根岸の花柳界になる。
大正11年の数字では、料理屋23軒、待合17軒、
芸者置屋35軒と、花柳界として、押しも押されもせぬ
存在に、なっていたようである。
(「花街」加藤正洋氏、より)
この根岸の花柳界の名残というのか、
当時の料亭が移り変わった姿が鶯谷駅前に今あり
山手線からも見えるラブホテル群。
ともあれ。
そんな今の鶯谷、根岸ではあるが、
[笹乃雪]は江戸もまだ元禄の頃、
初代が、宮様のお供をして、京都から江戸へきて
豆腐料理やを始めた、という。
それから三百有余年、時代や地域の変遷を越えて
[笹乃雪]はここでも豆腐を作っているのである。
一丁というのか、一箱、600円也。
(普通の二丁分以上はある。)
購入。
それから、魚売り場で、安くなっていた平目の刺身と、
谷中生姜を買って帰宅。(そういえば、谷中は根岸の隣である。)
これが[笹乃雪]の絹ごし豆富。
開けると、こんな感じ。
刺身を切って、豆富も切って皿にのせ、
谷中も味噌を添えて出す。
[笹乃雪]の絹ごしの、奴。
(これで1/4)
薬味はなしで、しょうゆだけ。
絹ごしだが、適度な硬さがあり、うまみにあふれた
豆富である。
まさに堪えられない。
いくらでも食べられる。
江戸銘品、根岸[笹乃雪]の豆富、で、ある。
台東区根岸2-15-10
TEL:03-3873-1145
断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5 |
2004 リスト6 |2004 リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10 |
2004 リスト11 | 2004 リスト12 |2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005 リスト15
2005 リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20 |
2005 リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006 6月
2006 7月 | 2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006 12月
2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月 |
2007 8月 | 2007 9月 | 2007 10月 | 2007 11月 | 2007 12月 | 2008 1月 | 2008 2月
2008 3月 | 2008 4月 | 2008 5月 | 2008 6月 | 2008 7月 | 2008 8月 | 2008 9月
2008 10月 | 2008 11月 | 2008 12月 | 2009 1月 | 2009 2月 | 2009 3月 | 2009 4月 |
2009 5月 | 2009 6月 | 2009 7月 | 2009 8月 | 2009 9月 | 2009 10月 | 2009 11月 | 2009 12月 |
2010 1月 | 2010 2月 | 2010 3月 | 2010 4月 | 2010 5月 | 2010 6月 | 2010 7月 |
2010 8月 | 2010 9月 | 2010 10月 | 2010 11月 | 2011 12月 | 2011 1月 | 2011 2月 |
2011 3月 | 2011 4月 | 2011 5月 | 2011 6月 | 2011 7月 | 2011 8月 | 2011 9月 |
2011 10月 | 2011 11月 | 2011 12月 | 2012 1月 | 2012 2月 | 2012 3月 | 2012 4月 |
2012 5月 | 2012 6月 | 2012 7月 | 2012 8月 | 2012 9月 | 2012 10月 | 2012 11月 |
2012 12月 | 2013 1月 | 2013 2月 | 2013 3月 | 2013 4月 | 2013 5月 | 2013 6月 |
2013 7月 | 2013 8月 | 2013 9月 | 2013 10月 | 2013 11月 | 2013 12月 | 2014 1月
2014 2月 | 2014 3月| 2014 4月| 2014 5月| 2014 6月| 2014 7月 | 2014 8月 | 2013 9月 |
2014 10月 |
(C)DANCHOUTEI 2014