断腸亭料理日記2014

2月花形歌舞伎 

通し狂言 青砥稿花紅彩画

白浪五人男 その4

2月11日(火)祝日

さて。

三回に渡って書いてきた通し狂言「青砥稿花紅彩画・白波五人男」。

四回目。今日は、この日の弁当を書いておこう。

劇場に入る前に買っておいた、木挽町[辨松]の赤飯の折詰弁当。


中身。


天地が逆だったかもしれない。

上から、煮物。
椎茸、牛蒡、筍、右側の細いちくわ麩のようなものが、
つと麩。

つと麩というのは、江戸、東京の生麩。

生麩というと京都が有名だが、ちゃんと東京にも生麩はある。
他ではまったく見ることはないが、[辨松]のおかずでは
定番である。

蒲鉾、その下の魚はかじきの味噌焼き。

玉子焼き、奈良漬けと金色の佃煮のようなものは切りいか。
切りいかというのは、するめを佃煮にしたもの。

どれも昔からの東京の味。

さて。

もう一度、弁天小僧の浮世絵。


豊国漫画図絵 弁天小僧菊之介 豊国 万延元年(1860年)

これは先に出したものであるが、
ちょっとイワクがる。

出版されたのが、万延元年(1860年)。

この芝居「青砥稿花紅彩画」は文久二年(1862年)の初演と書いた。

お気づきであろう。

そう。

この浮世絵の方が前、なのである。

芝居よりも前にこの絵があった。

え?

これはどういうことなのか。

弁天小僧にまつわる歴史ミステリー?。

初演で弁天小僧を演じた十三代目市村羽左衛門
(後の五代目尾上菊五郎)が河竹新七(後の黙阿弥)に
この絵を見せて、これを芝居にしてくれ、と
頼んでできたのがこの芝居、という説明を五代目菊五郎は
自伝で語っているという。

一般に今の歌舞伎会界でも、これが通説なのか。

この「豊国漫画図絵」というのはいつもこのページに
紹介しているような、実際に上演された芝居の場面を実際の役者の似顔で
描いたものではない。

“漫画”というのは現代でいうマンガではなく、当時は
頭で想像した絵、つまりフィクションの絵、というような
意味合いであったという。

「豊国漫画図絵」はシリーズの組絵で、内容は講談や歌舞伎に取材し、
人物も実在の役者の似顔を使っているが衣裳や画面の演出は、
あくまで豊国が想像して描いたたものということなのである。

ただこの、弁天小僧のみが講談にも出版された時には、
歌舞伎にも元ネタがないという。
これは明らかに不自然である。
これは、なにかあるぞ!。

では実際に演じられたの文久二年の「青砥稿花紅彩画」のこの場面の
芝居の絵を見てみよう。


絵師はやはり同じ、豊国。十二代目市村羽左衛門(五代目尾上菊五郎)
江戸市村座 文久二年

しかし、この二枚、見比べていただければわかろうが、
衣裳からなにから実際に上演された「白波五人男」に
そっくり。(これは現代でも変わっていないので間違いはなかろう。)

浮世絵からこの芝居を創ったにしてもこうも
そっくりなものを創るであろうか。?

では、どういう場合にここまでそっくりになるのか。

そう。

同じ作者が浮世絵も芝居も創った!。

合作。

つまり、豊国と黙阿弥が相談して創った。

それであれば頷けまいか。

この場合、性質上、主導権はストーリーテラーの黙阿弥に
あったのであろうと想像できる。

浮世絵が先にあったのではなく、黙阿弥が先にこの芝居を着想し
豊国に絵を描かせた。

なんのために?

むろん、芝居を当てるために。

実はこの説は、ちゃんとした下記のような論文もあって、
根拠もある。

今でいうメディアミックスというのか。

プロデューサー黙阿弥は、芝居を当てるために先に絵を出版した。

芝居の作者と浮世絵師、付き合いがあっても
なんら不思議はない。

ただ、やはりお客には、それでは夢がないので
もっともらしく、若い役者に花を持たせ、彼のアイデアにした。

なかなかおもしろい話ではないか。

あるいは、そうだったのかもしれない。
そんな逸話もある「青砥稿花紅彩画」であった。


と、いうことで四回に渡って書いてきた、二月花形歌舞伎
黙阿弥作「白波五人男」観劇記、読み切りとしようか。






参考文献「豊国と黙阿弥の意図 『豊国漫画図絵』から
「青砥稿花紅彩画」」(藤沢茜 2007年)





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