断腸亭料理日記2014

ねぎま鍋

12月10日(水)夜

夜、仕事を終えて 牛込神楽坂の駅に向かう道すがら
例によって今日はなにを食べようか、考える。
寒いし、やっぱり鍋か。

自分で買った大根は消費したが内義(かみ)さんが、
なにを思ったか、また買ってきて、またまた丸々一本、
大根がある。

今日は、池波レシピでもう一つの大根鍋メニュー、
浅利むき身と大根の鍋はどうであろうか。

牛込神楽坂駅のそばのスーパーをのぞくと
殻付きの普通の浅利はあるがむき身はない。

そう、むき身などスーパーでは
定番商品ではないのである。

また、他に鍋にできそうなものはないかと
探すが、ピンとくるものがない。

むろんスーパーなので寄せ鍋セット、のようなものは
あるのだが、あれはだめである。

鍋というものには、テーマが必要である。

なんでもいいから煮ました、
ではおもしろくないではないか。

いや、極端なことをいうと、
鍋に限らずすべての食事がそうありたい、
と、思っている。

池波先生も仰っていたと思うが
短い人生、ものを食う機会というのは限られている。

なにも高価なものを食べたい、というのではない。
毎日の一食一食を大切に食べたいのである。

よし。

まだ6時台、御徒町の吉池が開いていよう。吉池だ。

大江戸線に乗って上野御徒町で降りて吉池に。

さて。
もうここまでくると浅利むき身にしばられる理由もない。

売り場を見てまわる。
目に留まったのは、まぐろのあら。
どっさりあって、1パック191円也。

これはよい。

鍋、である。

まぐろのあらで鍋、といえば、、、

そう!。

ねぎま、である。

ねぎま、といっても、むろん鍋で、
ねぎの入った 焼き鳥ではない。

まぐろとねぎを濃いしょうゆのつゆで煮る。

ねぎま鍋は落語にもある。
「ねぎまの殿様」という噺。

「目黒の秋刀魚」と同工異曲で、世間知らずの殿様が
雪の夜、向島へ雪見にいくと、馬で家来一人を供に
本郷のお屋敷を出る。

湯島の切通し坂を降り、上野広小路あたりで、
よいにおいに誘われて、下賤な煮売りやに入る。

そこで、ねぎま鍋で燗酒を呑み、うまくてびっくりした。
まあ、それだけの話ではある。

この噺がいつできたのか、例によって
よくわからず、必ずしも江戸ではないかもしれね。

今は人気で世界中のまぐろを食べ尽くす
日本人だが、人気になったのは大正時代頃から
といわれている。
ちなみにその頃のこと、トロという呼び名が生まれたのは
日本橋の[吉野鮨]という。

以前は鯛などの白身魚が最上で、青魚や赤いまぐろ類は下魚とされ
特に、脂の多いトロはあらとして捨てられた、と
「ねぎまの殿様」でも説明される。

まぐろのあらを鍋にしたのがねぎま鍋、と、いうことになる。
(トロならばそりゃあうまいだろう。)

あらのパックには、血合いも入っているが
意外に脂のあるところも入っている。

帰宅。

やっぱり、最初に炭を熾こし火鉢の用意。
鉄瓶もガスで熱くしておく。

小鍋を用意。

まぐろは洗って、食べやすい大きさに切り、
ねぎは斜めに切る。


小鍋に酒としょうゆ、少しの水。
つゆはかなり辛め。

一度煮立てておく。

カセットコンロを用意。

七味も忘れてはいけない。

ねぎまには七味。
やっぱり多少、生ぐさいものではある。

すべてをお膳に運び、準備完了。

少しずつ入れて、煮る。


魚の鉄則は煮すぎない。
特にまぐろなどは煮すぎると
パサパサで食べられたものではない。

それでつゆは濃くしたのである。

刺身で食べられるものであれば、色が変わればもうよいが、
あらとして売られているものはさすがにそれでは心配。
中心までは火を通す。


煮えたら、七味をふって、ふうふうと、食べる。

やはり、下賤。

今風にいえば、B級?。

だが、これがまた、うまいのである。

脂のあるところなどは、もちろんのこと、
血合いでも火を通しすぎなければ、
これが意外にプリプリとうまいもんである。

これも江戸?東京の味といってよいのか。

 

 


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