断腸亭料理日記2013
11月10日(日)第二食
さて。
ふろ吹き大根、で、ある。
なぜかというと、大根が余っていたから。
深い理由はない。
少し前におろし用に使ったのだが、一本で買ってしまったので
余り、濡らした新聞紙でくるんで置いておいた。
1週間以上放っておいたと思われる。
いい加減、使わねばと思って、切ってみると、水分が抜け始め、
おろしにはとても使えぬ。
煮るくらいしかないか。
と、いうことで、そろそろ寒くなって、季節である、
ふろ吹き大根ということになった。
ふろ吹き大根というのは、そもそもどこの料理、
なのであろうか。
なぜあれが“ふろ吹き”なのか。
名前の由来は、諸説あるようでよくわからない。
茹でた大根に味噌をつけて食べるというものは、
豆腐、里芋などに味噌をつけて食べる、いわゆる味噌田楽に
近い食べ方で、特段珍しいものではなく、古くから全国で
こういう食べ方をしていたのではないかと推測する。
現代では味噌田楽というものは、あまり食べられなくなっているので、
ピンとこないかもしれぬが、この種の赤味噌をつけて食べる
味噌田楽は、鬼平などの江戸の市井を描いた池波作品にも寺社の縁日
などの屋台などで売られている風景が登場する。
また、剣客商売に登場する大治郎の道場(浅草の北、橋場)のそばにあった、
真崎(先)稲荷の境内には、宝暦年間というからやはり田沼時代の少し前、
なん軒かの茶店が味噌田楽を売り物にして名物になっていたという。
田楽にしても赤味噌をつけて食べるというのは、今考える以上に
江戸でも一般的であったと思われる。
で、ふろ吹き大根。
江戸、東京の下町でもよく食べられた、ある意味人気の料理で、
大根の食べ方として最もポピュラーな食べ方の一つであったの
ではないかと思っている。
以前にも紹介をしているが、江戸で一二を争うくらい
有名店であった[八百善]という料亭の「八百善料理通」というレシピ集にも、
ふろ吹き大根は載っている。
ちなみに[八百善]は江戸の頃は、前記の大治郎の道場のあった
という設定の橋場よりももう少し浅草寄り、山谷堀にかかる
山谷橋の袂にあった。
また、これは偶然かもしれぬが、その山谷掘をもう少し下って
隅田川に出る手前に待乳山聖天というお寺があるが、ここは
子授けのお寺で、参拝者は大根を供える。
正月の七日、今でもそうだが、大根祭といって、
ふろ吹き大根を信者に振る舞う行事がある。
さて。
今日もまた、八百善レシピで、ふろ吹き大根を作る。
皮をむいて、3〜4cmの厚さに切る。
面取りは省略。
大根の下茹で。
和食では糠(ぬか)を入れて大根を茹でるが、これも省略。
エグミを取る、というが、今一つ効果がはっきりしなかろうと、
思っている。
茹でるのは圧力鍋を使う。
加熱、加圧後、7〜8分。
火を止めて、30分放置。
これで、柔らかくなる。
鍋で大根を茹でるのはたいへんだが、時間は似たようなものだが、
エネルギーの節約にはなる。
同時並行で出汁を取る。
こちらは正しい、一番だしを。
水を張った鍋に、昆布を入れしばらく置く。
ある程度昆布が戻ったら、点火。
沸騰直前で、消火。
かつお削り節をたっぷり入れて、そのまま放置。
昆布は入れたままにする。
これで15分ほど置いて、濾す。
(出汁を取った昆布は例によって塩昆布にする。)
出汁に酒、しょうゆ、塩。
一度煮立てて、大根を入れ、上からもう一度、
別の昆布を入れる。
弱火で10分ほど煮て、火を止め、味をふくませる。
最後に味噌。
小鍋に白味噌(西京味噌)と赤味噌(八丁味噌)を半々。
出汁を少し加えて伸ばし、酒、味を見て砂糖も少し。
とろ火にかけながらよく練る。
そして、生の卵黄を一つ投下。
火から外して、さらによく練る。
照りがでてきたら、OK。
盛り付け。
ふろ吹き大根というのは、温かく、腹にもたまる。
燗酒にもよく合う。
むろん高級な料理ではないが、私などは、江戸・東京らしい
庶民の料理であろうと、思っている。
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