断腸亭料理日記2013
6月15日(土)夕
さて。
土曜日。
晴れているが、蒸し暑い。
夕方、内儀(かみ)さんとともに、久しぶりに
池の端藪へ行ってみようということになった。
本当に真夏だと、蕎麦でもない、ということになるが
蒸し暑いことは蒸し暑いのだが、風通しのよい座敷では
そこそこしのげる気候ではある。
4時すぎ、短パンに上はアロハ、下駄履きで、出る。
徒歩。
白鴎高校の前の道を真っ直ぐに西へいく。
この通りは、細い通りだが、昔からある。
以前はこの脇に、忍川といって、不忍池から流れた堀があった。
昭和通りに出る手前で右に曲がり、コレアンタウンを
抜けて、先程の一本北側の通りから、昭和通りを渡る。
この通りは丸井裏の通り。
[上野藪]があるが、今は改装中。
しばらくかかるのか、な。
右に肉の[大山]があって、JRのガードをくぐる。
このガードは餃子の[昇龍]や呑みやの[大統領]がある。
そのまま細い路地を抜けて、中央通り。
ABAB前、三橋(みはし)の交差点。
先ほどの忍川はここを流れていた。
その橋の名前が三橋。(三本あったので。)
渡って、池之端仲町の通りに入る。
この時間はまだこの通りは人通りも少ない。
毎度書いているが、江戸の頃は、春日通りはなかったので
湯島方面へ行く本道であった。
組紐の[道明]やら、落語にも出てくる寶丹(ほうたん)という
薬で有名になった[守田治兵衛商店]やらが今でもある。
仲町通りに入って少し行くと、左側に藪よりも古い江戸からある
蕎麦や[蓮玉庵]がある。
[蓮玉庵]はもとはこの通り沿いではなく、不忍池に面した側にあった。
池之端の藪蕎麦は通りのずっと奥。
おでんの[多古久]が右手にあって、池の端藪蕎麦はその手前左側。
と!。
きてみると、店前に4〜5人列。
あれま。
半端な時間に列とはおかしいと、思ったら、営業が16時半から
ということのようだ。
ついこの間までは、通しでやっていたはずなのだが、
休みを取るようになったのか。
4時半までは5〜6分。
ちょいと、待つ。
見上げると、店上の看板。
この界隈、ビルが立て込んでいるので、見上げたことは
なかったかもしれない。
『池の端藪蕎麦』。
ここの正式な店名は池之端ではなく、池の端と、
なぜだか漢字の『之』ではなく、カナ文字なのである。
(理由はわからない。)
この看板の左側の署名。
見えるであろうか。
『橘右近』としてある。
この人は、故人だが、今、寄席文字と呼んでいる、東京の寄席などで
使われている文字を復興した、家元的な方。
今の東京の寄席などで噺家などの名前を書いた紙、めくり、というが、
が舞台袖に出されているが、これなども皆、この橘右近氏のお弟子さん達が
書いている。
この店との関係でいえば、近所に寄席の[鈴本]があり、よく
落語家が出入りしていたからであろう。
店内には昭和の大名人達の絵入りの珍しい寄せ書きがある。
(この絵、昭和の落語好きにとっては、国宝級である。)
閑話休題。
若い衆が出てきて、店前の坪庭に水を撒く。
これ、小さいが、錦鯉が泳いでいる池もある。
4時半、店が開いて、待っている数人がどやどやと、
店の中に入る。
口開けなので、むろん、どこへでも座れる。
私達は、私が気に入っている、先の緑が見える表側のお膳に座る。
さて。
ヱビスの瓶をもらい、肴はなにがよかろう。
品書きを見ると、定番の柱わさびがない。
獲れないのか?!。
板わさに、とろろそばのそばなし、すいとろ。
それから、季節の泉州水茄子でももらおうか。
板わさと、水茄子。
すいとろ。
水茄子は、この季節のものだが、名前の通りみずみずしく、
口の中で皮をかみ切る時の食感がなんともいえず、よい。
ビールをもう一本。
よく、蕎麦やで、居酒屋のように肴を広げて、
酔っぱらうほど呑んでいるグループなどを見かけるが、
これはどうなのであろうか。
やはり、蕎麦やというのは、あたり前だが、
蕎麦を食うところで、居酒屋ではない。
肴の種類もそう多くはなかろう。
今は逆に、肴や酒を売りにしている新しい蕎麦やもある。
しかし、ここのような老舗では、仕上げに蕎麦、ではなく、
あくまで主役が蕎麦で、肴も酒も軽く、に、すべきではなかろうか。
物足りなければ、河岸を替えるのがよかろう。
ということで、わたしは、ざる。
内儀さんは、おろし。
シャッキリと、うまいそば。
気のせいか、今日のつゆは、少しからいような、、。
こちらの体調のせいであろうか。
ここも下町らしく、基本からいが、兄弟店の浅草並木藪ほどでは
なかったと思われるが、、。
勘定をして、ご馳走様でした。
まだまだ、明るい。
やっと少し、涼しくなってきたか。
池の端藪蕎麦
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