断腸亭料理日記2013
1月8日(火)夜
松の内、なんという言葉も、最近はあまり
使わなくなった。
昨日、仕事始めで、もうほぼ平常通り。
正月気分というのもすぐになくなる。
今日はとんかつ、と、決めた。
お節のようなものばかりで、
ちょっと、脂っこいものが食べたくなった、
と、いうわけである。
帰り道、一番気軽に寄れるのは、上野の井泉。
上野というのは、毎度書いている通り、
とんかつ発祥の地、ということになっている。
これは、明治時代、洋食やのメニューであったカツレツが
独立し、カツレツだけを出す店が生まれた。
おそらく、史実は、当時同時発生的に、東京の各所で
こういう店が多くできていた可能性は高いのだが、
当時、明治から大正の頃を創業としている店が上野には
数軒あるので、上野が発祥といってよいのではないか、
というのが私の考えである。
ぽん多が最も古く、明治
三十八年、次が蓬莱屋
で、大正三年、
井泉は昭和五年。
もう一軒、上野には双葉というのが有名であるが、
ここは戦後、昭和四十三年の創業で比較的新しい。
(現在、双葉は休業中。)
で、井泉が寄りやすい、というのは、
上野御徒町の駅から一番近いというのと、
一番カジュアルというのか、かしこまっていない
というのが理由、で、ある。
春日通りと上野広小路の交差点の南西出口から出て、
ちょうど裏っかわの路地にある。
従って、春日通りと広小路どちらからまわっても
大差はない。
今日は広小路からまわる。
格子を開けて、店に入る。
8時前、カウンターも八分は埋まっている。
開いていた角に座る。
エビスの瓶をもらって、
一杯。
さて。
なににしようか。
とんかつ。
特ロース、かな。
定食にしないで、きゅうりのサラダをもらおうか。
マヨネーズで和えた、かに肉入りのものだが、これがなかなか
うまい、のである。
と、、、、。
私よりも一人前に入った、年配の女性がまったく同じ、
特ロースと、きゅうりのサラダを、頼んでいる。
それも、日本酒付き。(まるで池波先生のよう。
池波先生は、とんかつでも日本酒であった。)
まあ、別段、かまわないといえば、かまわないのだが、
サラダを頼む人は、ここではそう多くはない。
組み合わせまで同じでは、真似をしたようでなんとなく、
気後れがする。
「特ロース」と、いってから、ちょっと悩むが、
サラダはやめて、やはり定食にしてもらう。
(ああ、また、食べすぎてしまう。)
ここの厨房もてきぱきと活気がある。
揚げている人、そのサブについている人、
それから豚汁などを作っている人、都合三人の男性。
揚がったカツは、専用のものであろう、
年季の入った下駄のようなまな板で、サク、サク、サクと
鮮やかに切って、皿にのせる。
きた。
箸で切れるとんかつ、というのが、ここの昔からの
キャッチコピー。
切って出てくるので、別段箸で切る必要はないのだが、
まあ、そのくらい柔らかい。
そして、今日改めて気がついたが、衣のパン粉が
みごとにサクサク。
香りもよい。
うまいもんである。
普通のロースと特ロースとなにが違うのか。
思い出してみると、大きさが違うような気がする。
肉質はどうなのか。
よく覚えていないが。今日の特ロースは
普通ロースに付いてる塊の脂身はついておらず、全体に
牛肉のように、脂が入っている、そんな感じ、で、ある。
豚汁も、うまい。
特に、五分に切ったねぎが。
うまかった。
ご馳走様。
勘定をして、出る。
前記の三軒の中では、“特”でも、ここが気持ち、安い。
だた、十二分に満足感のある上等のとんかつ、で、ある。
井泉本店
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