断腸亭料理日記2012
5月12日(土)
さて。
土曜日。
このところ、放っておくと、休みの日は
呑んだくれてしまう。
これではいけない。天気もいいし、3時すぎ、
御徒町方面へ自転車で出る。
平均気温よりは少し低め、なのであろう、
さわやか。
足元は素足に雪駄、気持ちがいい。
春日通りを渡り、小島町、右に曲がり、清洲橋通りも渡って、
佐竹商店街を横切る。
すると、お祭りだ。
そうであった。
今週は、下谷神社のお祭りである。
この5月中、下町は、土日、毎週どこかで
祭をやっている。
その中でも、下谷は毎年、初っ端。
そして、来週は、三社。
我々の鳥越は最も遅く、6月に入ってから。
なん度か書いているが、去年は震災影響ですべて中止。
二年ぶり、ということで、私達も楽しみにしている。
下町、特に、私の住む台東区などではどこに住んでも、
どこかの神社の氏子範囲にもれなく含まれている。
(そして、そこではまず、間違いなく神輿の出る祭が行なわれている。)
つまり、どこに住むかでどこの氏子になり、
どの祭に参加することになるのか、が決まってしまう。
マンションを買うときなどでも、どこのお祭りか、
そして、もう一つ、窓から隅田川の花火が見えるか、が、
この界隈では、皆、気になるところ、なのである。
花火はともかく、これは、三社様がある、浅草だから、
という側面は大きかろう。
(つまり、三社の氏子かどうかは、大きな問題なのである。)
浅草三社祭のネームバリューはむろん全国区で
神輿を担ぎたい、という人にとっては、花形の舞台。
全国から集まってくるのである。
神輿を担ぐには、町で揃いの半纏(はんてん、東京下町は
法被・はっぴ、ではなく半纏、という。)を着ていなければならない。
これは、下町どこでも、ルールとして決められていると思われる。
(この場合の町は、今の住居表示の町ではなく、多くは、
明治大正期の旧町、で、ある。台東区の町会のほとんどが、そうで、
これが祭の際の“町”の単位でもある。)
場所にもよるのであろうが、私の住む元浅草七軒町は、
他所から引越してきても、住んでいて、町会費を払えば、この祭の半纏を借りられる。
つまり、神輿を担げる、のである。(私は担ぎはしないが、
半纏は内儀(かみ)さんとともに、毎年借りている。)
つまり、外から来て、勝手に担ぐわけにはいかない、のである。
そこで、住んでいる知り合いに頼んで、半纏を借りて担ぐ。
あるいは、神輿サークルのようなもので毎年決まった町と
話ができており、担ぎにくる、ということもある。
(これは町の人間だけでは、担ぎ手が足らぬので、頼まざるを
得ない、という側面もある。)
で、人気のある三社などでは、担ぐ権利証であるところの、
半纏が1枚数万円で取引される、なんという話も
流れていたりするようである。
ともあれ。
私の住む元浅草を中心に見ると、私達は鳥越神社。
東(北)側の隣は浅草神社、三社で、西が下谷神社。
三社が少し北へずれているが、鳥越も三社も下谷も南北にほぼ並んで、
長い範囲になっている。で、下谷と鳥越の北の隣が、
鶯谷の方にある小野照埼神社。
概略、この界隈の氏子範囲は、こんな風になっている。
下町の祭、というのは、各町で神輿の出る祭なので、
神社門前に屋台店が出て、そこだけがにぎわうという
ものではない。
盛り上がっているところ、いないところ、多少土地によって
違う、のではあるが、それでもある程度は、範囲の町々全部が、
祭の色になる。いわば、その土日、氏子範囲全町が、もれなく
“祭空間”と、いうことなるのである。
各家々の軒下には祭の提灯が下げられ、注連縄(しめなわ)が
張られ、これだけで町の雰囲気がかわる。
お囃子が聞こえる、太鼓の音が聞こえる。
外から神輿を担ぎにきている人も多いから、
祭衣装(半纏を着ない状態)の人々が、歩いていたり、
車座になって、路上で呑んでいたり、、。
で、まあ、今週は下谷、なので、清洲橋通りを渡ると、
いきなり、こんな雰囲気に、なるのである。
かたや、静かな土曜日の午後の街、なのに、
道を一本渡ると“祭空間”。
この変化が、おもしろい。
さて。
御徒町の魚や、吉池の仮設店舗に着いて、魚を見る。
なんとなく目ぼしいものが見当たらぬが、中で、
はまちのアラ(350円)、タイムサービスのメジマグロの切り落とし
(200円)を購入。
帰り道、祭の中心、稲荷町の下谷神社へ回ってみる。
出店も出ており、狭い境内だが、人出は多い。
境内に置かれていた、下谷の本社神輿。
神輿には神社本体の本社神輿と、町内毎に持っている、
町内神輿と二種類がある。
本社神輿は各氏子町内を引き継いで、全町を回して
担ぐ。このあたりの祭ではそれは、日曜日。で、今日、
土曜に担がれるのは、各町内神輿だけ。
それで、今日は境内に置かれている。
下谷神社はお稲荷さんなので、五円玉に彫られている
稲の図案と同じような稲がこの神社の印(しるし)で、屋根に
つけられている。
わが鳥越祭の本社神輿は、千貫(せんがん)神輿などといって
大きいのが自慢。
(これは鳥越。一昨年のもの。)
下谷のものは、これよりは小さいか。
屋台店をひやかして、帰宅。
はまちのアラは塩焼き。
養殖であろう。脂があるので、煮るよりは、塩焼きがうまい。
(一本分のようで、この倍の量があった。)
メジマグロ切り落とし。
それから、谷中も。
こんなものが、十二分に
うまい。
さてさて。
来週の三社もたのしみ、で、ある。
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