断腸亭料理日記2012

並木藪蕎麦 その1

2月5日(日)夜

日曜日。

今日はなにを食べようか。

内儀(かみ)さんは鍋、久しぶりに、両国の
ももんじや、へ、行きたい、という。

前に行ったのは、猪年の2月で、やたらと混んでいた。

落語、二番煎じ、ではないが、この寒い時期に、
牡丹鍋(ぼたん)というのは、なかなか乙である。

が、残念!。

調べてみると、日曜休み。

どこが、よかろう。

と、思い出したのが、鍋ではないが、蕎麦、並木藪

しばらく、改築で休んでいたが
この間通りかかったら、きれいになっていた。

よし、行こう。

6時前、出る。
寒いのでタクシー。

元浅草の拙亭から雷門前の並木までは、
ワンメーター、で、ある。

降りて店の前、真新しい硝子格子を開けて入ろうとすると、
一杯。

日曜の夜の浅草など、観光客も引けてすいているのだが、
やはり、改築効果か。

待つ。

以前の建物をご存知の方も多かろう。
二階建ての日本建築で雰囲気があった。

さら地になっていたので、改築ではなく、
完全な新築である。

白壁も新しく、まぶしいくらい。
入口の上には、白木の大きな看板。
真ん中に大きく、藪の一字。
看板の右端下に、小さく並木の文字と藁屋根の家のようなイラスト。
これが並木?。

軒行灯(のきあんどん)のような看板も
大きくなっているような気がする。

我々の後ろにどんどんと、人が並ぶ。

田舎からきた若いカップル。
我々同様、タクシーできた初老の夫婦、などなど。

まあ、蕎麦やなので、そうはいっても、回転は速い。
十分かからずに入れた。

入ると、驚いた。
右側が、三和土(たたき)で、テーブル席。
左側が小あがりの座敷。

殺風景といってもよいような、なんの飾り気もない店で、
そこがよかった。
むろん新築で柱も白木できれいに光っているが、
配置や造りは以前と全く変わっていないようである。
まったく変えない、というのは、なかなかのもの、であろう。

お姐さんに、こちらへどうぞ〜、と、小あがりの一番奥、
帳場の前に案内される。

大きなお膳に先客二人、我々は店奥を背に並び、相席で座る。
先客の二人は、どちらも六十前後の男性。(二人は別々。)

座ったら、まずは、お酒、お燗で。

肴は、天ぬきと、今日は二人なので、鴨ぬきも。
それから、板わさももらおう。

天ぬき、鴨ぬき、というのはご存知であろうか。

天ぬきは、天ぷらそばのそば抜き。
鴨ぬきは、鴨南蛮の、同じく、そば抜き。

つまり、天ぬきは、温かいそばのつゆに、天ぷらが浮いているもの。
同じく、鴨ぬきは、鴨肉とねぎをつゆで煮込んだもの。

どちらも、つゆ、のもの、である。
これを肴に呑む、のである。

なんじゃそれは、と、思われる方もおられるかもしれぬ。

しかし!。
これが辛口の酒、菊正宗の樽酒、に合うこと夥(おびただ)しい。
(だいたいにおいて、汁もので酒を呑む、というのは、
一般にはあまりしないかもしれぬ。しかし、これも池波先生の教えだが、
例えば、蛤の吸い物。これなども、日本酒との相性は抜群、である。)

天ぬきにしても、鴨ぬきにしても東京のそばやならば、
どこでもいえば作ってもらえると思われる。

そして、私は、鴨よりも 天。

中でも、ここ並木藪のかき揚げの天ぬきは、
私の好物の一つといってよい。

そもそも、天ぷらをつゆに浸したもの、というのはなにか。
なにがうまいのか。

そう。

あの、つゆにふやけた衣がうまい、のである。

どこかのインスタントにあるが、
あとのせサクサク、など、まったくのナンセンス。
あの、ふにゃふにゃ、が、うまい、のである。

そして、この、ふにゃふにゃ、は、すましのような薄いつゆではなく、
甘辛のしょうゆの濃いつゆで完成する。

よって、東京一、ということは、日本一濃いつゆの、
ここ並木藪が最もうまい、と、いうことになる。

酒と板わさがきた。




といったところで、長くなった。
つづきはまた明日。





TEL:03-3841-1340
住所:〒111-0034 東京都台東区雷門2丁目11−9







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