断腸亭料理日記2012
暑中お見舞い申し上げます。
皆様にもお身体ご自愛のほど。
8月1日(水)
今日は大阪出張。
と、いっても、夕方、東京で会議があるため、
とんぼ返り。
10時、得意先入りなので、7時東京発ののぞみ。
新大阪着、9時半。
新大阪駅そばの得意先のため、新大阪駅正面口から出る。
先週も大阪にはきているので、その時もあったのだが、
出口を出ると、シャーシャーシャー、シャーシャーシャー、
という、クマゼミの大合唱。
他の音はほとんど聞こえない。
まさに、蝉時雨。
暑さを層倍のものにする。
(先日の京都では聞こえなかったのは、
なぜであろうか。)
大阪の人にはあたり前のことなのであろうが、
クマゼミの少ない東日本の人間にとっては
珍しい。
それも山の中や、郊外、で、あればまだしも
こんな町中で、ある。
新大阪駅の前には街路樹が比較的多く植わっている。
ここで鳴いているのか。
これだけの大きさなので、さぞやたくさんいるのであろう。
ちょっと時間があったので、桜であろうか、一本の
木に近づいてみる。
いた。
クマゼミは東日本にはまったくいないのかといえば、
私の子供の頃には、数は少ないがいた。
ミンミンゼミを二回りほど大きくしたくらい。
数は少なかったが、クマゼミのシャーシャーシャーという声が
聞こえ始めると、他の蝉はピタッと鳴くのをやめていた。
それも時間が決まっていて、朝から午前中。
なにか、蝉の親分が鳴いている、という存在感があった。
あまりにすごいので声とともに動画でも撮ってみた。
どうであろう。より暑さを倍化させる声ではないか。
閑さや 岩にしみ入る 蝉の声
ご存知の芭蕉の句である。
これは、奥の細道、山形の立石寺で詠まれた。
それで、この蝉は、クマゼミではなくニイニイゼミであろう、ということに
なっているようである。
句の解釈とすれば、蝉の声、蝉時雨は、
むろん、音量は大きなもので、
閑(しずか)さ、と表現される種類のものではない。
それを閑さと表現したのは、あたりを覆うほどの蝉時雨は、
聞いているうちに、段々に、聞こえなくなってくる。
いや、聞こえなくなってくる、という表現は適切ではない。
聞こえているのだが、そこに、閑かさ、を感じる。
なんとなくこの感覚は、日本人であれば
理解できることであろう。
小倉朗氏の有名な『日本の耳 (岩波新書)』
ではそれを“閑寂の緊張”と表現をしていた。
日本人が音をとらえる感覚は欧米人と異なり
例えば、蝉も音、ではなく、声として聞く。
あるいは、一つの音に没入して聞く日本人独特の感性である、
と、いう。
まあ、そんな、ゴタクも頭をよぎる、のではあるが、
この際は、閑寂の緊張よりも、暑さ、だけが、身にしみわたってくる。
(きっと、もう少し心に余裕があり、没入する時間があれば、
暑さも忘れてくる、の、かもしれないが。)
午前中、得意先での打ち合せを終え、
昼飯は、新大阪駅に入っている、うどんや、
道頓堀今井で、きつねうどんと親子丼のセット。
さぬきうどんともまた違う、大阪のオーソドックスな
昆布だしのしっかり利いた、汁(つゆ)。
また、揚げも甘めでふっくらとした食感もよい。
親子丼は、十分にうまいのだが、
私などにすれば、やはり東京の濃口しょうゆの甘辛に
慣れており、もの足りなさを感じる。
ご馳走様でした。
食べ終わり、再び、のぞみに乗って、帰京。
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