断腸亭料理日記2011
1月31日(月)夜
さて。
今日は、王子方面の事業所で仕事終了。
王子駅からJRの京浜東北線に乗って、
御徒町、が、帰り道。
腹が減った。
ふと、思い出したのが、田端駅の路麺、かしやま。
ここのところ、ご無沙汰、で、あった。
いや、路麺
自体、あまり書いていなかった。
路麺、と、いうのは、私が作った言葉ではないが、
立ち喰いそばや、それも、基本的には、
富士そば、などの、チェーンではなく、
限りなく、個人営業に近いもの。
言葉の由来は、ブランドものの店舗で、
デパートなどに入っているものではなく、
単独で店を構えているところを、路面店、
と、いうが、それをもじったもの。
面を“麺”に換えて、道路に面した、路傍の麺、と、いうような意味。
東京、特に、下町、これはオフィス街も含めた
台東区、千代田区、それも神田方面、中央区、
などの街角に、人知れず、ある。
起源は、戦後、のことのよう。
おそらく、闇市、あたりが、もと、
なのであろう。
従って、山の手ではなく、下町。
そして、皆、どちらかといえば、
目立たないところ、に、ある。
なぜであろうか。
明確な理由はないのだろうが、
おそらく、駅前だったり、表通りに面した、
一等地では、地代も高く、個人営業の立ち喰いそばなど、
成り立たない、ということであろう。
路麺、のよさ、というのは、なんといっても
質の高さ、で、ある。
個人営業であるから、いい加減な商売はしない。
目立たないところにある、小さな立ち喰いそばなど、
いい加減な商売などしていれば、お客はこない。
一杯、¥300程度のものに、ここまでするのか、
と、思われるところも、少なくない。
注文が入ってから、天ぷらを揚げる、
水道橋・三崎町のとんがらし。
あるいは、拙亭近所の浅草千束の、ねぎどん。
ここもなども、もはや、立ち喰いそばやとは
いえないくらいの店、で、ある。
洒落てもいない。気取ってもいない。
いや、そこがいい。
路麺は、洒落てしまっては、いけない。
気取って食べるものでは、ない。
安い値段で、ちゃんとしたものを出す。
そう。ひねらなくてよい。
“ちゃんとしたもの”だけでいい。
今の時代の東京では、まったくもって、
稀有な存在。
そして、路麺には、なにより、人の温かみ、
というものが、ある。
東京の街角に、昔はきっと、たくさんあった、
人の温かみ、で、あろう。
もしかしたら、あと、なん年かすれば、
東京から消滅してしまう、かもしれない。
それこそ、交通費を掛けても食べにいく価値がある、
と、いうもの、で、ある。
と、いうことで、田端のかしやま。
京浜東北線、王子で乗って、上中里、
次が、田端。
改札口は、橋の上、に、ある。
出たら、右。
この橋は、JRのなん本もある線ををまたいで
かけられている。
(そうそう、新幹線だけは、上を通っている。)
東詰までいって、真下に降りる階段を降りる。
真下に降りて、右側の橋の袂に、かしやま、はある。
お客、五人も入れば、それこそ一杯になってしまう、
カウンターのみの、小さな立ち喰いそば。
券売機で、食券を買う。
ここは、そばも、うどんも自家製麺。
そばもよいのだが、やはり、うどんが、
うまい。
天玉うどん、に、する。
かき揚げ天ぷらに、玉子、で、ある。
店は、家族営業。
お婆ちゃん、お父さん、息子さん、で、あろうか。
交代で店に出ている。
今日、この時間は、お父さんとお婆ちゃん。
お父さんは天ぷらを揚げている。
お婆ちゃんが、うどんを温め、つゆをかけて、
出してくれる。
このお婆ちゃんがまた、よい。
おそらく、お年はそうとういっているであろう。
ちっちゃな身体で、腰が曲がっている。
口数は少ないが、物腰柔らかく、とにかく、
いつもにこやか。
客商売というのは、こうでなければ、いけなかろう。
どこやらの、ご託ばかり並べて、食わせてやるくらいの態度の、
昨日今日でき星の恰好だけの店に、見せてやりたい。
お婆ちゃんが、運んでくれる。
寒い冬には、温かいうどんが、なにより。
多少の茹で置き、ではあるが、それでも
腰の強いうどん。
下町風のしょうゆの濃いつゆ。
柔らかめのかき揚げ。
うまい、うまい。
食べ終わり、御馳走様ぁ〜といって、
出る。
後ろから、ありがとうございましたぁ〜、
の声に送られる。
やはり、田端かしやま、よい店、で、ある。
お婆ちゃん、いつまでもお元気で。
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