断腸亭料理日記2010
今日は、昨日の続き。
11月吉例顔見世大歌舞伎、河竹黙阿弥作「天衣紛上野初花」。
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序 幕 湯島天神境内の場
上州屋見世先の場
二幕目 大口楼廻し部屋の場
同 三千歳部屋の場
吉原田圃根岸道の場
三幕目 松江邸広間の場
同 書院の場
同 玄関先の場
四幕目 入谷村蕎麦屋の場
大口屋寮の場
浄瑠璃「忍逢春雪解」
大 詰 池の端河内山妾宅の場
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もう一度、幕構成を書いておく。
これでも相当長いが、原作からはカットされている場面があり、
黙阿弥が書き下ろした初演の頃は、もっと長かったようである。
序幕の後、昼の休憩。
先に、木挽町辨松の弁当。
辨松の弁当には欠かせない、江戸の生麩、つと麩の入った
濃いめの味付けの煮物。焼いた魚(粕漬、鰆であったか。)、
蒲鉾、豆きんとん、葉唐辛子の佃煮、奈良漬。
やっぱり、歌舞伎見物にはこれがよい。
ともあれ。
ここで、あらすじを書いても仕方がないので、
やめておくが、この話、むろんつながっているのだが、
実際は、二つの話から出来上がっているといって
よかろう。
つまり、河内山(こうちやま)と、直侍(なおざむらい)が
二人とも主人公で、それぞれ、別の話が進行していくといった方がよい。
河内山は、大名をゆする話。
色男の直侍の方は、吉原の太夫、三千歳(みちとせ)との恋の話。
従って、見せ場は両方にある、と、いう、
そういう意味では、贅沢な芝居といえよう。
幸四郎の河内山。
大名家にゆすりにいく三幕目。
それまでの、衣装と打って変わって
白い僧衣に赤く薄いものをはおり、上野の宮様のお使いに
化(ば)ける。
この姿が目にも鮮やか。
そして、化けの皮がはがされても、なおかつ、居直って、
啖呵を切って、やっつけてしまう、という。
これも、鮮やか。
(河内山、まあ、そうとうヒドイ奴である。)
そして、最大の見どころは、直侍の方。
二幕目と、四幕目が直侍と三千歳の話が進行し、
そういう意味では続いている。
中でも、四幕目は見せ場中の見せ場、で、あろう。
吉原からも離れていない、雪の降る、入谷田圃の小さな蕎麦屋。
直さんが、来てくれないからと、恋の病になった三千歳は、
入谷の寮に出養生(でようじょう)にきている。
追手の掛っている直侍は、この雪の中、別れを言いに、
忍んでくる、という場面。
その前に立ち寄ったのがこの蕎麦屋。
菊五郎の直侍。
寒い雪の中、尻を端折って素足に草履。
傘を指して、花道から登場、、、、。
この蕎麦屋での情景が、実に『江戸』。
直侍の衣装、蕎麦屋の内装、直侍が蕎麦を食べるしぐさ、
酒を呑むしぐさ、蕎麦屋の老亭主と老女将、
その他もろもろ。
様々な歌舞伎評論にもこのことは書かれているが、
明治になって、十数年、黙阿弥はこの作品で、なくなっていく
『江戸』を見せたかった、という。
そして、これに続く、「寮の場」。
寮での、三千歳との濡れ場というのか、
別れの場面になるのだが、ここも、見せ場。
清元の「忍逢春雪解」(しのびあうはるのゆきどけ)。
「冴えかえる春の寒さに降る雨も、暮れていつしか雪となり、
上野の鐘の音も氷る、細き流れの幾曲り、
末は田川へ入谷村・・・」
と、いうのが、背景に流れる。
三千歳が、まあ、行かないでくれ、と、直侍に
すがり付く、わけである。
男の私が見ても、なるほどよい場面であると、感じるくらい。
(男だからか!?)
この清元の「忍逢春雪解」は、むろん、この芝居のために
作られたものらしいが、清元最大の名曲という。
(私自身は、清元に限らず、このあたりは、
よくわからぬ。もっと聞かねば。)
ま、ま、ざっと、11月顔見世大歌舞伎「天衣紛上野初花」、
私なりの観劇の評は、こんなところである。
4時過ぎ、新橋演舞場を出て、ぶらぶらと、
築地方面へ。
そうそう。
この築地市場の前にも新橋花柳界の料亭
と、いってよいところがある。
新喜楽。
その前を通って、新大橋通りを本願寺の前も通り、
向こう側へ。
入谷田圃の蕎麦屋、ではないが、
蕎麦を、食おうと思ったのである。
築地さらしなの里。
ビールをもらって、じゃこのかき揚げ。
もりそば。
そして、帰り道、日比谷線の築地駅への間、
新大橋通りの本願寺側に佃茂(つくも)という
佃煮屋さんがある。
屋号からわかるように、もとは、佃島にあった。
佃の佃煮。そう、佃煮の元祖といってもよい店であろう。
そして、「佃」の字が屋号に入る家は、
江戸の初め、権現様が幕府を開かれたときに、
摂州佃からやってきて、江戸前の海で漁をすることを許された、
漁師の末裔。
実は、ふとしたことで、ここの家の方とお知り合いになり、
今度、寄ってよ、と、話されていたのであった。
私は、お店に入ったのは初めてだが、店の前に貼られていた、
ちりめん山椒、が、気になり、ご挨拶、とも思い、寄ってみた。
少し、お話をし、ちりめん山椒は買わせていただいたのだが、
これからが季節の牡蠣の佃煮をいただいてしまった。
どちらも、まぎれもない、江戸の味。
うまい佃煮、で、ある。
ともあれ。
江戸情緒の直侍の芝居と、
蕎麦と、佃の佃煮。
まさに、よい休み、で、あった。
(やっぱり、男も芝居を見るべきである。)
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