断腸亭料理日記2008

小島町・うなぎ・やしま

5月24日(土)夜

小島町交番隣の、うなぎ、やしま

先週の土曜日、たまたま、近所で
自転車に乗っているご主人に会った。
(私も、自転車であった。
例の、つと麩を買った、麩やさんの帰り、で、ある。)

と、いうわけで、今週は内儀(かみ)さんとともに
くることにしていた。

ご主人とは、旧知、で、ある。

この日記がきっかけなのであるが、
まあ、なん度も書いているので、いきさつは上記リンク、
過去のものをご参照されたい。

やっぱり、暖かくなってくると、うなぎ、で、ある。

再来週は、我々の町内のお祭り、鳥越祭り。
昼間見たら、やしまの、店の前にも
鳥越祭りの貼り紙がしてあった。

やしまは、春日通りと左衛門橋通りの交差点。
南西の角に交番があり、その隣、春日通り沿い。
ちなみに、毎度書いているハナマサは、その隣、で、ある。

やしまのご主人は、明治40年創業、雷門の老舗、初小川
で、修業をされた方。

うなぎの蒲焼、と、いうのは、東京の名物である、
と、いって問題はないであろう。
中でもやはり、下町に名店、老舗が多くある。

私が考える、よい店は、南千住尾花

神田明神下神田川

麻布野田岩(高島屋特別食堂)

そして、雷門色川

どこがどう、という細かいことは長くなるので
やめておくとして、やはり、一般的に、
下町の蒲焼は、甘辛の味が濃い、といえるだろう。

しかし、意外にも、浅草雷門に店を張っている
初小川は、きりっと、さっぱり。
粋な蒲焼、というような表現が適切かもしれない。
上の四軒とはまた違う、よい店、で、ある。

そして、やしまの蒲焼も、
初小川譲りの味、で、ある。

6時過ぎ、下駄を突っかけて、
内儀(かみ)さんとともに出かける

トントントン、と、歩いて、目と鼻の先、で、ある。

店に入り、ご主人に挨拶をして、
座敷に上がる。

先客は数組。

まずは、瓶ビール。
ここは、エビス、で、ある。


お通しは、いつもの、味噌豆。
これも、もうなん回も書いているので、
説明はよい、で、あろう。
こちらをご参照。)

もともとは、初小川のお通しが、味噌豆であったような
記憶がある。(昨年であったか、久し振りに
初小川へいってみたら、味噌豆ではなかった。
たまたまであったのか、どうなのかわからぬが。)

味噌豆を、現代において出しているところは
他には、やはり、少なかろう。
このように、昔の味を今でも引き継いでいる、
と、いうのは、どうにも、乙、ではないか。

味噌豆のどこが乙なのか、なにがよいのか。
ちょいと、つまむだけだから、
お通し、なんぞは、なんでもよいようにも
思われるかも知れぬが、こんなところが
大事なのである。

先日、神田まつやのところで
池波先生のエッセイ「江戸風味の酒の肴」というのに
触れたことがあった。

「民芸風の厚ぼったい器物」はだめだ、とか。

『 ともかくも、さっぱりと手早く調理をして

 出す。これを味わう方も「待ってました」とばかりに箸をつける。

  だらだらとのみ、長々と食べていたのでは、これまた

 江戸前の魚介が泣いてしまうことになる。』

といったようなことを、書かれているが
なんとなく、これにつながっているような気がするのである。

器から、出すものから、出し方、
そして、食べる方はその作法にはじまり、会話、
店での振る舞い、すべて、にまで及ぶであろう。

言葉にすると、粋、だったり、乙、だったり、
ということになるのだろうが、
もっと、違うものも含んでもいるようにも思う。
(巷間、昔からいわれている、江戸っ子風を吹かす、
というのとも、むろん違う。)
なかなか、説明がしずらい。

江戸、東京の男の美学、なんというと、
格好付けすぎ。
やはり、池波先生のエッセイのタイトルに
その名も『おおげさがきらい』と、いうのがあったが、
これなぞは、近いコンセプトかもしれない。
(これはまた、もう少し、考えてみたい。
これも、滅びかけている『東京』の一つのように思う
のである。)

ともあれ、私にとっては、そんなやしまの、
味噌豆のお通し、で、ある。

さて。

頼むものは、決まっている。
白焼きと、うな重。


白焼き。
これは、いろいろ考えなくとも、
乙、な、つまみ、で、あろう。

半端なところで、食べてしまうと、
白焼きは、なまぐさい。
もちろん、そんなことはなく、あまく脂もありながら、
さっぱりと、本わさびのしょうゆ、で、つまむ。

そして、お楽しみのうな重。


この味。

先に書いたが、さっぱりと、粋な蒲焼。

むろん、さっぱりといっても、味が足りないとか、
濃い味の好きな、私であっても、物足りない、という
ことは、まったくない。

近所であるから、なんとなく当たり前に
なってしまっているが、むろん初小川もであるが、
稀有な蒲焼、で、ある。

うまかった、うまかった。

ごちそうさまでした。



やしま
TEL 03-3851-2108
東京都台東区小島2丁目18−19




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