断腸亭料理日記2008

蕎麦・百人町・近江家

6月9日(月)昼

さてさて、少し間があいたが、木鉢会シリーズ。

木鉢会とは、
東京の老舗蕎麦やの勉強会であるという。

いったことのあるところでは、

池の端藪

神田まつや

かんだやぶ

書いてはいないが、浜町藪そば、茅場町長寿庵、虎ノ門砂場、
などなど。

そして、知らなかった、あるいは、
それほど知られていない、私のいったことのない
ところを、随分と発見し、いってみている。

室町紅葉川

築地さらしなの里

日本橋やぶ久

どこも、ちゃんとした、東京のそばや、で、あった。
むろん、そばの味もいいし、それぞれ、工夫もあり、
客を迎える顔も、東京のそばや、である。
(これは後述するが、東京のそばやとして、大事なところである。)
また、日本橋やぶ久など、夜はゆっくり呑めるところもある。
伝統を守りながら、立派なものである。

やっぱり、こうなると、最近の趣味そばブームは、
なんなのであろうか、と思わずにはいられない。

そば至上主義、というのか、
「求道者気取りの蕎麦通たち」(佐藤隆介氏)
と、いうような風潮を作り出す、グルメマスコミ周辺。

それがすべてでは、ないだろう。

そばは、やはり、江戸から続く、
東京の食文化の一画。

その本質は、前にもちらりと書いたが、
結局、『客を迎える顔』、ではないか、と、
なん軒か回っているうちに、気が付いた、
と、いうのか、行き着いた、のである。

東京のそばやで、心地よい、と感じるのは
『客を迎える顔』ではないか、と。

私の感じる、趣味そばでの、居心地のわるさは、
これなのである。
どんなにそばにこだわっていようが、
やはり、『客を迎える顔』、がなければ、だめであろう。

それも東京のそばやには、東京のそばや独特の、といっていい
気持ちよく『客を迎える顔』がある、と思うのである。
おそらく、これは江戸以来、長年、東京でそばやとして
商売をしている中で、客と店で培われたものなのであろう。
(これは、先日の、京都、で感じたこと、にも通じるのであろう。)

客を迎える声、注文を通す声、蕎麦湯を出すタイミング、
出し方、送り出す声、、などなど。
〆て、店の中に流れている空気、ということになろう。

そういう意味で、これまで回ったところは、姿は新しくなっても
空気は、どこもそのような、正しい東京のそばや、で、あった。

さて、そんなことで、今日は、百人町の近江家。

百人町とは、ご存じの通り、新宿区大久保。

私の場合、最近は、山手線の向こう側には
滅多に行くことはなくなったのだが、
外部の会議がたまたまこのあたりで行なわれ、
比較的定期的に、きていたのである。

大久保、新大久保界隈。
今さら私が説明することもなかろう。
皆さんご存じの通り、韓国朝鮮系だけでなく、中国系
あるいはそれ以外?、今は、ここはどこの国か
と思われることになっている。

韓国料理やで、キムチやらたくさんのおかずの付いた、
ランチの石焼ビビンバ、などもうまいのだが、
今日は、近江家へきてみようと思い立った。

百人町の名前の由来は、というと、やっぱり江戸の頃。

江戸幕府の百人組という、鉄砲部隊。
彼らは伊賀、甲賀、根来(ねごろ)、(忍者として有名であるが)の
出身者が中心であったようである。

しかし、この百人町は、江戸中期以降はつつじの名所として
江戸中に知れ渡っていた。
入谷の朝顔は、御徒町に住む、御徒組の下級御家人達の副業から、というが、
百人組も同様に下級御家人であったようで、
おそらく、同じようなことなのであろう。

百人町は今でも随分広い区域であるが、
江戸の地図を見ても、ほぼ同じ範囲である。
ここはもう既に江戸の郊外でもあり、屋敷もあろうが、
広いつつじの畑、であったのであろう。

今のこのあたりの様子からは、隔世の感があろう。

近江家は、大久保駅を降りて、すぐ。
大久保通りを渡った向こう側。
ビルの一階。

木鉢会のページによれば、
拙亭ご近所、三筋のそばやで修業された初代が、
明治32年に麻布笄町(こうがいちょう・現西麻布)に店を開いたのが
最初で、その後、大正5年に今の場所に移った、という。

昼時、入ると、かなりにぎわっている。
雰囲気としては、庶民的、という感じであろうか。
外を歩いている人々と、店の中のお客との差がおもしろい。
むろん、日本人。そして、やはり、四十台より上。
女性も少なくない。

大きめのテーブルに座る。

さてさて、なにがよかろう。

老舗そばや、で、あるから、オーソドックスな
メニューばかりなのだが、
ん?

カレーせいろ。

カレー南蛮のつゆで、食う、せいろそば、で、あろう。
この前いった、日本橋やぶ久にも確かあって、
気になったのだが、ここにもあったか。

これ、うまそう。

いってみようか。
こんなメニューがあるのは、
やはり庶民的ということかもしれない。

きた。


予想通り。

つけることを考えて、やはり少し濃いめなのであろう。
十分にうまい。

ランチ割引の、半ライスも、追加。
ご飯も、カレーせいろ、には、必須だろう。

うまかった、うまかった。
今度は、普通のそばも、食べてみなければ。




百人町 近江家
電話番号:03-3364-2341
住所:新宿区百人町2-4-2 サンビル1F



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